高校と同じく大学にも、教育課程全体をマネジメントし、一定の質を保証する取り組みが求められています。上智大学だからこそ成し得る教育とは。その特色を打ち出し、質の向上を追求するのが、学務担当副学長です。
全学を挙げて、教育の質の強化に乗り出す
学務担当副学長が受け持つ仕事をひと言で表すと、学部・大学院の「教育環境の基盤整備」。教育の質を保証するためのPDCAサイクル――授業が計画(P)通り行われた(D)か、学生調査等で確認(C)し、計画以上になるように強化する(A)――を回す役割です。
その一環として、従来各学部がそれぞれ行っていた授業アンケートを、2022年度からはFD(Faculty Development:教員の教育力を高める取り組み)委員会が全学共通の設問で実施。結果を受けた改善や強化も、同委員会が主導する方式に改めました。各学部の教育の現状を同じ尺度で把握し、全学の教育の質を一定以上に保つためです。
授業アンケートには、知的に刺激され深く勉強したくなったか、発言や発表など授業に能動的に参加する機会がどれだけ設けられていたかなど、大学が目指す授業形態を意識した質問を増やしました。刷新を経た最初のアンケートを分析しているところですが、ほとんどの学生が、本学の教員は授業への取り組み意欲が高いと評価しています。いわゆる“楽単”と呼ばれる、ただ単位の取りやすいような授業ではなく、知的刺激が得られる授業を「他の学生におすすめしたい授業」と評価するという、頼もしい結果も得られました。それらの結果をふまえ、発言やプレゼンテーションの機会をさらに増やしたり、さまざまな立場の考え方に触れる内容にしたりと、各授業の改善を進めています。
自律した学修者になるための「基盤」を形成
学務担当副学長就任後の最も大きな取り組みが、全学共通科目に代表される基盤教育の整備です。従来の大学教育のイメージでは、専門科目を学ぶための「基盤」だと思われるかもしれませんが、違います。社会がすさまじいスピードで変化し続ける現代、自律した学修者として生涯学び続けるための「基盤」を形づくる教育です。
2022年度からスタートした全学共通科目の枠組みの中には、全学生が学ぶべきものとして、新たな必修科目を設置しています。まず入学前には、一般選抜の入学者も含めた全入学者が「学びを学ぶ」というオンライン科目を受講。上智大学の考え方や教育のしくみを理解したうえで履修登録に臨みます。それから、新たな必修科目として特徴的なのが「データサイエンス概論」。文系・理系を問わず、誰もがデータと無縁ではいられない社会を生きていくために、1年生全員がその概要を学びます。クリティカルシンキングと表現を学ぶ「思考と表現」という科目では、文章や発言を見聞きする際、ただ受け入れるのではなく、理由を深掘りしたり、別の見方を検討したりする姿勢を養います。また、「課題・視座・立場性を考える」という科目では、1つのテーマをさまざまな立場から、あるいはさまざまな学問から捉え、多角的な視座の獲得を目指します。
また、上智大学では伝統的に、様々なアプローチからの人間理解を重視してきました。「キリスト教人間学『他者のために、他者とともに』」は、本学の教育精神に基づき、他者との関わりのなかでよりよい世界を築いていくための意識や態度を培います。「身体のリベラルアーツ」では、他者や社会と繋がる自らの身体に目を向けることから、人間理解を深めます。これらの科目も他の全学共通科目や専門科目との接続を意識してリニューアルしました。
さらに、全学共通科目と学部・学科の専門科目が有機的に連携するしくみを構築しました。例えば、2年次以降の専門科目は、1年次に全学共通科目でデータサイエンスの基礎を学んだことを前提に進められます。文系の学部・学科でも、調査データを今までより詳しく分析する機会が出てくるでしょう。逆に、専門科目を学んできた3、4年生が全学共通科目で議論をすることになったときは、それぞれの専門分野を背景とした意見を出し、議論に深みをもたらすはずです。各教員は、自身の科目を履修する学生がどんな学びを経てきたのかを把握するため、1年間をかけて担当外の科目への理解を深めてきました。
こうした取り組みを通じてめざすのは、上智大学ならではの学びの先鋭化です。現在は、自分の現在の学力レベルに合わせて大学選びを行う人がまだまだ多いでしょう。でも将来は、例えば「一生学ぶ姿勢が身に付くから」「利他や共生の精神を学びたいから」など、「ここに共感した」という理由で上智大学を選ぶ人が当たり前になっていてほしい。しかもそうした人が日本中、世界中から来てほしいと考えます。知ってさえもらえれば、その魅力は国内にも海外にも通じるはず。10年、20年後には、誰もが知っている大学になっていたいですね。