分野を横断して知恵を巡らし、課題解決に取り組む姿勢を通して上智大学がめざすのは、世界をリードする知の拠点です。大学の3つの使命である教育、研究、社会貢献のうち、研究に関する分野を所掌する学術研究担当副学長が、研究機関としての上智の強みや強化中の取り組みについて語ります。
ワンキャンパスだからできる分野融合型研究が強み
学術研究担当副学長として、研究の円滑化、活性化、そして社会への情報発信に取り組んでいます。高校と大学の違いの一つに、大学では教員が同時に研究者でもあるという点が挙げられます。研究とは、人々が知らなかったことを一つずつ明らかにして、その成果を社会に還元していく営みです。この過程を間近に見ながら問題解決能力を鍛えるという学びのスタイルが、大学という教育機関の特徴であり、他の学校や独学では得難い経験なのではないかと思います。研究力が大学選びの重要な要素として注目されるようになってきたのも、それが学生の学びの質に直結するからでしょう。
本学の研究の強みはまず、どの研究の根底にも「他者のために、他者とともに」というキリスト教ヒューマニズムが存在していることであると私は考えます。常に弱者に目を向け、社会課題の解決を志向している点は、「誰一人取り残さない」を理念に掲げる、現在のSDGsの考え方に通じています。
さらに、四谷のワンキャンパスに文理9学部10研究科が全て集結していることから、分野融合型のプロジェクトに取り組みやすい点が大きな特色と言えます。これらの特色を生かした、複数領域をまたぐ研究で持続可能な未来を目指すプロジェクトが、文部科学省の競争的資金「私立大学研究ブランディング事業」に2016年度、2017年度と連続で採択されました。2016年度に採択された事業は、河川域を中心とした自然環境の開発がテーマで、生物、災害、法律などの研究者が集まっています。2017年度の採択事業は、人間の安全保障がテーマで、貧困、環境、医療などの研究者が協働しています。国の支援期間を終えた現在も両事業は発展的拡大を続けており、本学は「自然」と「人間」の2つのテーマにおいて、世界をリードする研究拠点をめざしています。
若手育成、女性研究者への支援もさらに充実
現在取り組んでいるのが、「自然」と「人間」に続く、次なる研究の核づくり。建学の理念や本学の特色に沿う研究を学内から募り、優れた研究に助成する「学術研究特別推進費」によって「重点領域研究」を指定し、特色の「芽」を育てています。同制度に採択された研究のうち、より大きく発展する可能性のあるものについて外部資金の獲得に力を入れ、将来的に拠点化する考えです。
研究をより活性化させるには、若手の育成や女性の活躍も不可欠です。日本の大学院生の減少は、大学の国際競争力停滞の一因になっていますが、上智大学の大学院生はほぼ一定数を保っています。さらに若手を研究に呼び込もうと、今年度から博士後期課程の大学院生、原則全員に、学費の半額を助成する奨学金を開始しました。RA(リサーチ・アシスタント)やTA(ティーチング・アシスタント)といった有給の教育・研究支援スタッフ制度と組み合わせれば授業料がすべて賄えることになり、経済的な心配をせずに研究の道を歩むことができます。
女性研究者の研究環境整備についても、10年以上前から取り組んでおり、育児期間中の補助員の手配、託児所の設置などが進んでいます。本学の女性研究者の割合は3人に1人以上と、全国的に見ても高い水準です。2021年度には、女性研究者の研究力向上のための調査を行う機関を支援する「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ(調査分析)」(文部科学省)にも選定され、同志社大学と連携して調査分析を進めています。大型プロジェクトのリーダーを女性が担う機会を創出しようと、さらなる検討を進めています。
大学は学問を教わるだけでなく、自ら課題を発見し、課題解決に向けた研究を進める場でもあります。社会には様々な課題があり、課題の数だけ研究があります。大学受験をひかえる高校生の皆さんにはぜひ、普段目が届かないところにも視線を向けて、世界には数多くの研究の題材があることを知っていただきたいと思っています。研究をもっと身近に感じてもらおうと、今回の大学Webサイトのリニューアルでも、学内の研究者が自身の高校時代や研究を始めたきっかけを語る記事の掲載を始めました。刺激を受けた未来の上智生たちが、新たな知を生み出す活動に参加してくれるのを楽しみにしています。