「多様性」と「平等」の尊重をキャンパスから

学生総務担当副学長
文学部 フランス文学科 教授
永井 敦子

紛争や自然災害などにより、国際社会の混乱が続く中、他者への理解と寛容さがこれまで以上に求められています。未来を築く若者に対して、大学は何ができるのか。学生が成長する場としてキャンパスをどう捉えていくべきなのか。学生総務担当副学長が、その思いを語ります。

キャンパス上空を舞うバルーンに学生の姿を重ねて

2023年10月、創立110周年行事の1つである「バルーンリリースセレモニー」に参加しました。1号館前のテラスに集まった日本人学生や留学生たち。その手から放たれ、空高く舞い上がる色とりどりのバルーン――その光景を眺めながら、「今ここにいる若者たちも、いずれは世界に散らばってゆく。彼らには戦争や災害で命を落とすことなく、平和の中で自らの能力を思う存分発揮してもらいたい」と考えていました。

バルーンリリースセレモニーには学生・教職員が1000人以上集まった

今、世界にはウクライナやパレスチナなど、紛争により悲惨な状況に陥っている場所があります。貧困や格差、環境問題など、1つの国では解決できない課題も少なくありません。こうした困難な状況を乗り越え、少しでもよい方向に進めていくには、他者を受け入れる姿勢、多様性と平等を尊重する心が欠かせないでしょう。

大学のキャンパスは、さまざまな国や地域から、多様なバックグラウンドを持った人が集まり、交わり、巣立っていく「港」のようなもの。だからこそ、キャンパスのあり方を理想的な環境に近づける必要があるとあらためて感じています。

「他人ごと」を「自分ごと」として捉え直すきっかけとなるボランティア

他者を受け入れる姿勢や共感する力を育むことが大切だとはいえ、「他人ごと」を「自分ごと」として捉えることは容易ではありません。考え方や行動を変える1つのきっかけに、ボランティア活動があります。

上智大学が大学として初めてボランティア組織を立ち上げたのは1931年。生活困窮者の救済と、カトリックの慈善事業の精神の涵養を目的として、「上智大学カトリック・セツルメント」を設けました。1977年には、「インドシナ難民に愛の手を 上智大学」を設立し、ボランティアへの関心と活動を海外にも広げています。1983年に大学の学生部にボランティア組織を移設し、ボランティア募集受付と学生の派遣を開始。同年に全盲の入学者を受け入れたこともあり、手話・点字の学内ボランティア養成講座を開講し、共に学ぶ仲間を手助けするしくみを拡充させています。

当事者ではない人が被災地で片付けをする、聴覚に支障のない人が手話のボランティアをする、訪れたことのない国で飢餓に苦しむ子どものための募金活動をする――こうした経験は、関心の幅や物事を考える際の視野を広げます。だからこそ、考え方が柔軟な学生時代に、多くの若者がボランティア活動を経験することを期待しています。

異文化理解における経験の共有と対話の大切さ

相互理解の促進という意味では、留学生との交流も有効な機会です。上智大学には今、100近くの国と地域から約1900人の留学生が集まっており、日本人学生と留学生が日常的に触れ合うチャンスにあふれています。一方で、留学生たちだけで助け合う姿も目にしており、日本人学生が異文化への関心と理解を、本当の意味で深めているかと言われれば、まだ疑問符がつきます。

近年、訪日外国人観光客が増え、「外国人の目から見た日本の姿」がメディアで盛んに取り上げられるようになりました。それ自体は悪いことではないのですが、日本文化や日本食の素晴らしさに焦点を当てただけの内容も多く、ともすれば内向き志向を助長する側面があると感じています。大学における国際交流は、世界的な課題について議論し、共に解決策を探るための人間関係の素地を育むものであるべきでしょう。

そのためには日本人学生と留学生が体験を共有し、対話し、お互いのバックグラウンドを知る機会が必要です。上智大学は、学生センター内にSSIC(Sophia Student Integration Commons)を設け、学生同士の交流を促進する活動を展開しています。近年は、平和記念公園や原爆ドームを訪問する広島ツアー、イスラームの伝統文化体験やモスク訪問を行うイスラーム・ウィーク、アイヌ文化に触れるオンラインスタディーツアーを開催しました。また、日本文化に精通している教職員も参加して、歌舞伎や相撲などの日本文化に触れるイベントも開催しています。

一方で、多様なバックグラウンドを持った留学生が、キャンパス内で不快な思いを抱えたまま学生生活を過ごさないよう、いつでも悩みを打ち明けられる体制を整備しています。ウェルネスセンターには、「なんでも相談窓口」を設置。ハラスメントはもちろん、どこに相談したらよいかわからない問題についても、多言語で気軽に質問できるようにしています。

キャンパスで得た経験と友情を一生の宝に

冒頭でも述べたように、世界規模で相互理解や寛容、和解が求められている今日、紛争の解決、飢餓・貧困の撲滅、環境破壊の抑止に寄与することは高等教育機関の必須の使命です。そしてそれは、教育・研究面だけでなく、課外活動や教育の場であるキャンパスづくりにおいても、追求されるべきであろうと考えます。

理想的なキャンパス実現のために、留学生は自国の文化から、日本人学生は日本社会や日本文化から、キャンパスの多様性と平等を実現するための知恵を持ち寄ってもらいたい。さらに、交流によって学生生活を豊かにできた経験を卒業後の生活や仕事に生かしてほしい。そして何よりも、バックグラウンドが異なる学生と共に活動し、対話することを通じて友情を育んでもらいたい。これらは若者にとって、一生の宝になるはずです。

上智大学 Sophia University