分断が進む世界で、真に求められるグローバル人材を育てる

グローバル化推進担当副学長
法学部 国際関係法学科 教授
森下 哲朗

今、多くの大学がグローバル教育に積極的に取り組んでいますが、その目的や教育のあり方は大学によってさまざまです。では、上智大学が考える「これからのグローバル人材に欠かせない力」とは何なのでしょうか? グローバル化推進担当副学長が、その問いに答えます。

対話を通じて価値を生み出せる人が不可欠に

近年、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻といった大きな出来事が立て続けに発生し、サプライチェーンの混乱やエネルギー危機などを引き起こしました。もはや世界はバラバラでは存在できず、お互いに支え合っているのだという現実を、多くの人が再認識したはずです。

一方で、こうした危機は世界の分断化、ブロック化も加速させています。建設的な精神を持ち、対話を通じて新しい価値を生み出す人がこれまで以上に求められるでしょう。この状況を踏まえ、私は本学の学生に、次の5つの資質・能力を身につけてほしいと考えています。

まず、大切なのは「①グローバルな視野とローカルな視点」です。バラバラになりそうな世界において、大局的に物事を捉える視野は間違いなく必要です。しかし、それだけでは物足りません。それぞれの地域には、固有の特色や事情があります。それらをローカルな視点で捉える能力も欠かせないでしょう。

「②違いを楽しみ、そこに価値を生み出す力」も不可欠です。今、国際社会はさまざまな対立や課題を抱えています。メディアの情報を鵜呑みにして特定の国や人種に固定観念や先入観を抱くのではなく、ぜひ自分の目で見て、対話し、「違うことは当たり前だ」という前提に立って解決策を模索してほしいと思います。考え方や文化、慣習、置かれている状況の違いを楽しみ、そこから新しいアイデアや価値を生み出す力が、これからの時代にますます重要になるでしょう。

真の国際人と認められるには「③豊かな教養」を持つべきです。多様なバックボーンを持つ人たちと議論する際は、対話のベースとなる教養が求められます。また、教養は現代のような変化の激しい社会において、新しく生まれた事象を判断、評価する際の物差しにもなります。

“グローバル”と言うと、どうしても国外に目を向けがちですが、「④自国への深い理解」も忘れてはいけません。自国の政治や経済、文化についてしっかり語ることができない人は、国際社会で尊敬されないでしょう。自国の政治、経済、文化について理解を深め、自信を持って話ができることはとても大切です。

「⑤語学力」が重要なのは言うまでもないでしょう。国際共通語である英語が苦手だと、どれだけ能力が高くても海外で活躍できる幅が狭まります。本学には高い英語力を持つ学生が多いのですが、より実践的で高度な英語力をしっかり身につけてほしいと思います。加えて、英語以外の言語も修得できるとよいでしょう。言語の学習はその背景にある文化を学ぶことにもつながります。もう1言語、2言語と貪欲に習得してもらいたいと思います。

5つの資質・能力を磨く基盤教育、語学科目、留学プログラム

学生に前述の5つの資質・能力を磨いてもらうために、本学は近年、教育の拡充に努めてきました。

2022年度からは、 学生に“生涯学び続けるための基盤”を身につけてもらうべく、カリキュラム改革に着手し基盤教育を導入しました。すべての学生に対して、人間に対する深い理解、多角的な視点から事象を読み解く力、問いを立て批判的に考える力の獲得を後押しします。これは、教養の修得や「違いを楽しみ、価値を生み出す力」の獲得につながるでしょう。

語学に関しては、レベルに応じた英語の授業を展開するほか、22言語の語学科目を開講しています。学内には海外からの留学生や外国出身の教員が多く、本人が望めば外国語でコミュニケーションできる機会も豊富です。この環境を利用して語学力を向上させることを期待しています。

バックボーンが異なる他者との違いを認識し、自国への理解を深めるためには海外体験が有効です。しかし、さらなる成長を望む学生の皆さんの中には、海外体験や海外大学の授業を受講するだけでは物足りないという方もいると思います。そこで、さらに一歩進んだ新たな海外プログラムを、今、まさに準備中です。

例えば、米国・ニューヨークからスタートしてアジアの国々を回りながら、国際社会が抱える課題について現地の学生や研究者と議論を重ねていく。あるいは、アジア太平洋地域の学生が集まり、世界共通の課題に異なる角度から考察し、解決方法にアプローチする。このような挑戦的な留学プログラムを実現させるために、今、世界各国の大学との関係づくりを進めています。

グローバル社会での活躍をめざす高校生の成長に資する教育の提供

グローバル社会で、他者との違いを楽しめる人間になるには、自分の“芯”を持っていなくてはなりません。しっかりした“芯”を形づくるために、若者が高校時代から希望や理想を抱き、さまざまなチャレンジができるよう、本学はそのきっかけとなる高校生向けのプログラムや成果発表の機会も設けています。

2020年にスタートした「せかい探究部」は、高校生が世界の事柄や東南アジアのフィールドを題材に、自分がわくわくできるような探究に取り組むオンラインプログラムです。参加者は本学の教員の指導を受けながら、論文をまとめていきます。加えて、高校生向け英語弁論大会「ジョン・ニッセル杯」も英語力の向上をめざすよいきっかけになるでしょう。

こうしたプログラム等をはじめ、チャレンジ精神旺盛な高校生の意欲に応えるよう、今後もさらなる成長の機会を提供していきます。

他方、グローバル人材の育成だけが、大学の役割だとは考えていません。日本の大学が分断化する世界に対してできることはたくさんあるはずです。学生や卒業生の活躍に期待するだけでなく、大学自身も理想を掲げ、国際社会に対話や協力を働きかけていきたいと思います。

上智大学 Sophia University