共同生活の中で学び、交流、成長を促し、利他的リーダーシップを涵養する ~学生寮を人間教育の場として活用

学生総務担当副学長
文学部 フランス文学科 教授
永井 敦子

居住スペースであると同時に、学生の成長の場にもなりうる学生寮。上智大学は直営寮を“教育寮”と位置づけ、学びや成長を促進するしくみ、プログラムを展開しています。多様な学びの場として機能する寮について、学生総務担当副学長が語ります。

日本人学生と留学生が混住する3つの直営寮

現在、本学は上智枝川寮、祖師谷国際交流会館、アルペ国際学生寮という3つの直営寮を運営しています。どの寮も日本人学生と留学生が混住(こんじゅう)する国際寮である点は共通していますが、それぞれ寮としての個性・特徴を持っています。

2005年に開寮した上智枝川寮は男性寮です。一般的なワンルームタイプのつくりで、学習面でも生活面でも個人のスタイルを確保できるのが特徴です。他方、コミュニティルーム等もあり、必要に応じて寮生同士の交流ができるようになっています。現在、8か国から集った約50人の学生が生活しています。

祖師谷寮で開催された「中国文化ワークショップ」

祖師谷国際交流会館(2012年開寮)は最も規模が大きく、1年生から大学院生まで300人弱が生活しています。その6割が45の国・地域から集まった留学生で、日常的なコミュニケーションはほぼ英語で行われます。家族や夫婦が入居できる部屋もあり、海外から家族とともに来日した研究者も共に暮らしています。周辺は緑に囲まれた住宅地。寮生と地域の方々との交流も盛んです。

2019年に新しくできたアルペ国際学生寮は、180室ある男女寮です。留学生や異なる学部、学年で構成された7人で1つのユニットをつくり、そのユニットごとにダイニングキッチン、トイレ、シャワー、洗面台を共有して暮らすシェアハウス方式。コモンリビングと呼ばれる大きなリビングルームも各階に配置しています。

このように、どの寮にも留学生と全国各地から集まった日本人学生が暮らしており、共同生活を通じて、多様な言語・宗教・文化・価値観に日常的に触れることが可能です。学生の成長において、こうした機会は非常に重要かつ貴重なものだと考えています。

人間的な成長を促す“教育寮”としての伝統

“混住型”に加えて、本学の寮は“教育寮”であることも大きな特徴と言えます。

本学の学則には「教育理念に則り、共同生活を通じ学生を訓育するため、附属学生寮を置く。」と明示されています。

海外のキリスト教系大学では、学生寮が人間教育の場の役割を果たしている例が少なくありません。本学にもかつてそうした伝統があり、キャンパス内の寮で神父と学生が共同生活を送っていました。今はもうその寮はなくなりましたが、現在の直営寮にも「リビンググループ制度」という形で、そのエッセンスが残っています。

祖師谷寮 リビンググループリーダー(LGL)研修の様子

リビンググループ制度が導入されているのは、祖師谷国際交流会館とアルペ国際学生寮です。祖師谷国際交流会館では15人で1グループを、アルペ国際学生寮では7人で1グループを組み、生活の基本的なコミュニティとしています。留学生を含む多様な学生と共に日々生活する中で気づきを得たり、生活習慣の違いを感じたり、時には摩擦を経験しながら成長してもらいたいという狙いがあります。

また、グループにはそれぞれリーダーが任命されています。このリーダーたちは寮内での様々な学習会、ウエルカムパーティーやクリスマスパーティー等の交流イベントの企画、新寮生の生活サポートなどにあたり、それぞれの寮の雰囲気、文化の醸成に貢献しています。

寮生向けの教育プログラム「利他的リーダーシップ育成プログラム」

2019年からは寮独自の教育プログラムとして「利他的リーダーシップ育成プログラム」を実施しています。これは、本学の教育方針であり、寮のミッションでもある”For Others, With Others”を具現化する取り組みです。寮生は基礎講座と実践的なPBL(プロジェクト型学習)に取り組みながら、課題解決力を身に付けていきます。

プログラムの具体的な内容は毎年刷新されます。ある年の基本講座は、チームビルディングの方法やプロジェクトマネジメントを学ぶ内容でした。寮生自身が学びたいテーマを考え、大学側のスタッフと一緒に講演会を企画することもあります。これまで、気候変動や「Black Lives Matter」をテーマにした講演会が、寮生発案の企画として実現しました。

2022年度のPBLでは、森林保全について体験的に学ぼうと、都内近郊の森でのフィールドワークを行いました。2023年度からは、新型コロナウイルスの流行が一段落したこともあり、直営寮生向けのスタディーツアーを年6回実施する予定です。コンセプトは、SDGsや社会課題に取り組む現場に赴き、現実に起きている問題に直接触れること。湘南に出かけてビーチクリーンに取り組むプログラム、ボッチャなどのユニバーサルスポーツ(年齢、性別、障がいの有無やスポーツの得意・不得意等に関わらず、その場にいる誰もが一緒に楽しめるスポーツ)を実際に体験するプログラムなどを準備中です。

東ティモール地域に関する学習ワークショップ

こうしたプログラムを実施するのは、「本学の卒業生には社会課題に向き合い、リーダーシップを発揮して解決策を探ってほしい」という考えがあるから。複雑化する現代の社会課題は一人では解決できず、多様な人との協働が欠かせません。寮という多様な人々が集まる環境で、仲間と共に個々の力を発揮し合いながら、目標を達成していく経験をしてほしいと期待しています。

寮生と共に新たな“教育寮”としての伝統をつくる

寮生たちは、こうした共同生活とプログラムを楽しんでいるようです。寮生からは「寮生活の一番の魅力は、何事も自分一人で完結させず、みんなと協力できること」「ルールは当然あるが、必要があれば寮にかけあってルールを変えたりするなど、寮生自らが寮の雰囲気をつくりあげている」という声もあがっています。

大学としては寮生の安全・安心のためのサポート体制拡充はもちろんのこと、本学ならではの “教育寮”としての伝統を、寮生たちと協力しながら守っていきたいと考えています。

上智大学 Sophia University