変わる教育、変わる質保証-上智らしさを体現する「質」とは何か

学長
理工学部 機能創造理工学科 教授
曄道 佳明

学修者本位の教育をめざし、教育や学生の質を点検、改善、保証する「教学マネジメント」体制の構築が、各大学で進んでいます。上智大学が取り組む教学マネジメントと、その背景にある考えを、曄道学長が語ります。

PDCAサイクルの確立は、挑戦への出発点

近年、日本の大学では、教育の質、卒業する学生の質を、いかにして客観的に保証するかが課題となっています。上智大学では、この動きが起きる前から質保証について真正面から考えてきました。

例えば本学の授業アンケートでは、教員の熱意や知的刺激を感じる授業が高く評価されています。したがって、授業満足度を高めて教育の質を担保するために、単にわかりやすく教えるだけにとどまらない、学生の探究心を呼び起こす工夫が各教員に求められています。

また、コロナ禍によってオンライン授業が普及した際、対面授業と同等の質に引き上げようという動きが全国で起きました。しかし、本学ではもともとオンラインは対面の代替ではなく、対面にはない良さがある別物の教育だと考え、それぞれの質を評価する最適な方法を探っています。

こうした検討をより深く行うため、2021年度に整備したのが、全学規模で回すPDCAサイクルです。

これまで主に質保証活動を行ってきた自己点検・評価委員会に加え、教学施策の企画・指示を出す「大学企画会議」、点検・評価結果の検証と改善提案を行う「質保証運営会議」を新設。さまざまな組織、教職員がPDCAサイクルに関わるため、サイクルの俎上に載った取り組みや課題の共有が進んでいます。また、各組織の役割が明示的になり、1つの課題に対して、4つの異なる視点から向き合えるようになりました。

しかし体制の確立は、到達点ではありません。私たちは今、既存の大学にはなかった新たな教育に取り組んでいます。この新たな教育の試みを評価、保証するしくみは、まだこの世に存在していません。現時点での上智大学の教学マネジメント体制は、それを模索するためのスタート地点なのです。

既存の手法が通用しない、新たな教育

上智大学は2022年度、4年間のカリキュラムに「基盤教育」という考え方を導入しました。

基盤教育とは、生涯学び続ける、人生の基盤をつくる教育です。したがって卒業生の質を保証するには、卒業後も学ぶ姿勢が備わったか否かを評価しなければいけません。それはどんな方法で、どのレベルに到達すれば質が保証されたと言えるのか。また、基盤教育は、カリキュラム全体を通して織り成されるものです。したがって教育の質については、一つひとつの授業の質だけでなく、授業同士が連携し合えているか、知が効果的に折り重なって基盤形成に寄与しているかが検証の対象になります。

今後は基盤教育の考え方を進展させ、教養教育と専門教育の境目、学部と学部の境目を今以上に取り払い、各学生に、その人ならではの学びのデザインを求めようと考えています。学生ごとに異なる多様な学びのキャリアができるとき、それぞれの質を保証するという営みは、これまでの教学マネジメントの手法では難しいでしょう。

保証する質が、大学の個性を体現する

小中高も含め、これまでの学校教育が採用してきたのは、どこかに基準線を引いて、その達成度をチェックする評価手法でした。

対して基盤教育は、どこかにゴールという線引きがあるのではなく、自身や社会の状況に応じて、自ら進む道を開拓し続ける力を養っています。修得をめざす力は個々で違っていて当然で、同じ人の中でも時の経過と共に変わってもいくでしょう。この教育の質、学んだ学生の質の保証は大きな課題であり、同時にその検討こそが教育の本質でもあると思います。

なぜなら、大学が求める教育・学生の質を定める行為とは、その大学の哲学、存在意義を具現化する行為だからです。保証してきた質の積み重ねが、その大学らしさを形成します。

新たな教育に乗り出した上智大学が、その「上智らしさ」を社会に向けて保証するには、質の問い方、保証の仕方自体を、これまでとは変えていかなければなりません。ゴールのない教育、一人ひとり異なる成長を、いかにして評価するのかという挑戦を、上智大学は続けていきます。

上智大学 Sophia University