「まだない」教育を、日本の大学のパイオニアとして

学務担当副学長
文学部英文学科 教授
池田 真

学務担当副学長に就任した池田真教授は、最新の英語教育法であるCLIL(内容言語統合型学習)の第一人者として知られるとともに、学内における教育の質保証に取り組んできた実績を持ちます。これまでに手がけた教育施策と、副学長としての新たな決意を語ります。

英語で他教科を学ぶ「CLIL」を日本に導入

もともとは英文法史の研究者ですが、今では英語教育にも深くかかわっています。中学校の「NEW HORIZON」、高校の「FLEX」などの教科書を編集しており、中高教員向けの研修も年間20数回は行っています。英語指導者であれば、どこかでお目にかかっているかもしれません。

中でも専門は、CLIL(Content and Language Integrated Learning)という学習法。英語を使って英語以外の教科を学び、思考力を育てます。今では小中高にも広がるこの学習法は、実は2010年代初頭、私と学内外の研究者が一緒になって日本に導入しました。上智大学でも全国の大学に先駆けてカリキュラムに組み込み、現在は全学共通科目「Academic Communication」で1年生全員が経験。「英語で考える」「英語で協働する」とはどういうことかを、初年次に体得するカリキュラムになっています。

こうした学内のカリキュラムの整備をはじめ、シラバスの管理、履修登録、成績評価、学生調査など、教育の質保証と改善に取り組むのが、学務担当副学長と、学事センターという組織です。私は2021年度から4年間、学事センター長を務め、2025年度から学務担当副学長に就任しています。

施策を提案する立場から、実行する立場へ

学事センター長として重点的に取り組んできたのは、単位の実質化。よく「日本の大学生の学修時間は諸外国と比べて少ない」と言われる、あの問題です。主な要因は、同時期に履修する科目が多すぎることにあります。上智大学を含め多くの大学の学生は、特に低学年次において1週間に10科目以上を履修していますが、それだけの科目数分の授業外学修時間を確保するのはほぼ不可能です。履修登録単位数に上限を設ける提案を行ったほか、1週間に複数回授業を行う短期集中型の科目をつくる案や、履修科目数が少なくなりがちな4年次に必修科目を置く案も議論しています。

成績評価の改革も手がけてきました。大学の成績評価は教員による評価基準に幅が生じやすく、上智大学でも各科目の成績平均値に差があります。そこで2025年度から、どの科目も成績平均値を一定範囲内に収めるルールを試行することにしました。これを機に、大学における成績評価とは何か、どんな評価方法が適切なのか、教職員が考えるきっかけになればと考えています。

学事センター長はこれらの改革案を執行部に答申する立場だったのですが、学務担当副学長になると、執行部としての方針を示したうえで、学内の理解を得て施策を確実に実行し、成果を評価する役割になります。入学時の能力と卒業時の能力を比べたときに、歴然とした変化、成長を学生が実感できる教育を提供できるように、教職員の皆さんと力を合わせていきたいと思います。

上智大学を起点に、日本の大学教育を変えたい

学生の学びへの意欲が強く、教員もそれに応えてきたのが上智大学です。学務担当副学長の所掌である学生への授業アンケートで、肯定的な回答の割合が最も高かった設問は、「教員に熱意はあるか」でした。

他方、大学教員は小中高の教員のように、指導者としてのトレーニングを受けずとも就ける仕事です。熱意はあっても、自身が大学で受けた教育しか知らないまま教えていることもあり得るでしょう。つまり、FD(Faculty Development:教員の能力を向上させる組織的な取り組み)によってスキルを磨けば、さらに教育を良化させる伸びしろが、上智大学にはあります。

今後、FDなどを通じて学内に浸透させていきたいのが、学生のエンプロイアビリティ(employability)を高める教育方法です。日本ではまだあまりなじみがない言葉ですが、雇われる能力、雇われ続ける汎用的な能力を指します。大学には、学生を社会に送り出す責任があります。学生たちが自信を持って社会に出られるように、エンプロイアビリティを高める教育のあり方を探っていきます。

CLIL、単位の実質化、そしてエンプロイアビリティ。これまでも、これからも、「まだない」先駆的な取り組みを果敢に取り入れる姿勢は変えません。上智大学から、日本の大学教育全体を変えていこうと意気込んでいるところです。

上智大学 Sophia University