10月7日から24日まで「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、「第20回上智大学国連Weeks October,2023」が開催されました。11月11日にはポスト企画も行われ、全8件の多彩なプログラムが展開されました。

パレスチナ難民の若者から見たガザ地区の今 ―日本・UNRWA70周年―

7日、国連ウィークスOctober, 2023の冒頭企画が開催されました。全体進行は翻訳家でラジオパーソナリティのキニマンス塚本ニキ氏。国際協力人材育成センター所長の植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授が冒頭挨拶を行い、パレスチナ難民の歴史的背景と、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の紹介がありました。

3人のガザの中学生が笑顔で意見を述べた

続いて、UNRWA保健局長の清田明宏氏から、現地の活動について説明がありました。そして、塚本氏からゲストであるガザのUNRWA学校の中学生3人(Lama Y.A. Owdaさん、Fadi S.M. Aliさん、Jenan Y.M. Abu Younisさん)が紹介され、それぞれが将来の夢や趣味などについて発表しました。3人は学生議会の代表を務めており、学校内やコミュニティの問題をUNRWAの政策決定者に伝える役目を持っています。それらの活動を続ける中で責任感やリーダーシップを学んできました。いずれもUNRWAにより質の高い教育を受けられていることに感謝の言葉を述べた中で、「教育は酸素のようなもの」という印象的な表現がありました。初めての海外で日本を訪れ1週間を過ごした印象は、という質問には「日本にも過去に苦しい時代があり、それを乗り越えた経験があったことに驚き、共通点があると感じた。文化的にもパレスチナと日本のつながりを感じ、高校生との交流も大変楽しかった」などの感想が述べられました。

シンポジウム後半では、参加者から、夢や情熱を持つことが難しいといわれる日本の若者へのメッセージや、人々の共存のためにできることは何か、などさまざまな質問が寄せられました。最後に、植木教授が「インターネットが利用可能なこの時代、日本とガザの若者同士がつながり、お互いに助け合うことができる。実行できる小さなことを探して行きましょう」と述べ、シンポジウムを締めくくりました。

国連大学学長(国連事務次長)チリツィ・マルワラ教授による特別講演

10日、2023年3月1日付けで国連大学学長(国連事務次長)に就任したチリツィ・マルワラ教授による特別講演会を開催しました。国際協力人材育成センター所長の植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授がモデレーターを務めました。

AIの可能性について語るマルワラ教授

はじめに、人工知能(AI)を専門とするマルワラ教授が「人工知能(AI)とそのガバナンスについて」と題して講演を行いました。「AIは古い知能である」と1950年から始まった歴史的背景に言及したのち、今AIが注目を集める理由として、膨大なデータが蓄積されたことと、コンピュータの性能が向上したことの2点を挙げました。そして、国連が掲げるSDGsにどうAIが対応できるかを、具体例とともに解説。8番目の「働きがいも経済成長も」では個人化した需要に対する経済予測の可能性に期待を寄せ、16番目の「平和と公正をすべての人に」では紛争を終わらせるだけでなく、事前に予測して防ぐことに活用できるのではないかと提案しました。今後の課題に倫理や法規制、セキュリティなどを挙げ、AIとの向き合い方としてガバナンス強化の必要性を説きました。

次に、人工知能や機械学習を専門とする本学理工学部情報理工学科のゴンサルベス タッド教授が、AIの現状と今後の可能性について講演を行いました。まずAIが現状できることを解説。そして今後のAIが目指す領域を人間と同じレベルとし、人工感情知能と汎用人工知能の可能性について紹介しました。「人間はAIに良い面も悪い面も学習させることができる。だからこそ、倫理的価値を付与したガイドラインが必要だ」と強調しました。

後半は、登壇者2人が参加者からの質問に答える形でパネルディスカッションを実施。「AIは人の仕事を奪うのか」「国際協力分野で今後どのように活用していく可能性があるか」などの質問が寄せられました。最後に、植木教授が「追いつくのが大変なほど急速に進化するAIだが、ネガティブな部分を最小化し、ポジティブな部分を最大化する方法を今後も一緒に模索し続けていきたい」と総括し、本講演会を終了しました。

理工系の複合知を世界に

ゲストの五十嵐氏(中央右)を囲んで討論した

16日、理工学部との共催で「理工系の複合知を世界に」をテーマとしたシンポジウムが開催されました。持続可能な社会での「複合知」「STEM教育」の国際展開の意義について議論し、理工学部英語コースの今後のあり方も模索する機会として、理工学部機能創造理工学科の宮武昌史教授と足立匡教授が企画。ゲストに、同学科出身で国際的に活躍するサイエンスエンターテイナーの五十嵐美樹氏(東京都市大学人間科学部特任准教授)を迎えました。

宮武教授による開会宣言と澁谷智治理工学部長の冒頭挨拶に続いて、足立教授が「上智大学理工学部の英語コースの取り組み」について講演を行いました。次に、ゲストの五十嵐氏が「サイエンスエンターテイナーとしての取り組み~自分らしい理系進路の見つけ方~」と題し講演。国内外での活動の紹介や、本学在学時の学びが自身のキャリアにどのように生きたのかを語りました。そして「自分らしい理系進路を実現してほしい」と、参加した生徒・学生たちにエールを送りました。

シンポジウム後半では、宮武教授がモデレーターを務め、五十嵐氏に理工学部物質生命理工学科の竹岡裕子教授と機能創造理工学科のエミール・イルマズ助教を加えてパネルディスカッションが行われました。冒頭、理工学部の多様性という観点から、理工系進学者の女性割合がOECDで最下位という日本の現状に触れ、竹岡教授は「理工系という選択肢、可能性を女性に見せることが大事。そして五十嵐先生のように、分かりやすく示してくれる存在が必要」と話しました。また、五十嵐氏は自身の活動経験から「特に地方に多い、理工系の進路を不安に感じている女子生徒たちに力や自信を与えていきたい」と語りました。イルマズ助教は自身の留学経験や出身のトルコと日本の比較などを紹介。多様な背景を持つ人と共に学ぶことの重要性を参加者が共有しました。

理工学部の魅力や将来性については、国や性別だけでなく分野のダイバーシティを持つことの必要性が説かれ、宮武教授は「英語コースが複合知の国際的なハブとなり、理工学部として多様性を持ったバランスの良い組織に発展していきたい」と総括しました。最後に足立教授の閉会挨拶で、盛況のうちに終了しました。

国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ

20日に、国際機関や国際協力分野でのキャリアを考える人たちを対象にキャリア・ワークショップを開催しました。

冒頭、モデレーターを務める国際協力人材育成センター所長の植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授から本日の登壇者の紹介がありました。特別講演を担当する、国連事務総長代表兼国連コソボ暫定統治機構セルビア・ベオグラード事務所長の山下真理氏(法国卒)はベオグラードから、国連訓練調査研究所持続可能な繁栄局長兼広島事務所長の隈元美穂子氏は出張中のニューヨークから、それぞれオンラインで登壇。ワークショップには、国連開発計画前駐日代表で京都大学大学院特任教授の近藤哲生氏と同現代表のハジアリッチ秀子氏、元本学特任教授でGR Japanシニアコンサルタントの浦元義照氏、外務省国際機関人事センター課長補佐の羽鳥良人氏、元国連教育科学文化機関職員の山下邦明氏、そして本学国際協力人材育成センターから、植木所長に加えて所員の梅宮直樹グローバル教育センター教授と山﨑瑛莉氏が参加しました。

ワークショップにはたくさんの学生・高校生が参加した

特別講演「グローバルキャリアのすすめ」で、山下氏と隈元氏は自身のキャリアを紹介した後、「グローバル人材には語学力、分析力、創造力、寄り添う心が大切。国連の日本人職員はまだ少ないが、期待され歓迎されている」と語りかけました。特別講演はオンラインでの配信も行い、会場外からもたくさんの人が耳を傾けていました。

講演後は対面でワークショップを実施。会場には国際機関や国際協力分野を目指す学生や高校生などが集まり、ブースごとに熱いクロストークが繰り広げられました。

公正性と包摂性をめぐる教育の新たな挑戦

21日、地球規模課題が山積する中、SDGsの教育目標「すべての人に質の高い教育を」をどう実現するか、本学も加盟しているアジア太平洋環境大学院ネットワーク(ProSPER.Net)、国連大学、UNESCO、文部科学省、環境省および本学が連携して議論するシンポジウムが開催されました。国連大学サステイナビリティ高等研究所イノベーションと教育プログラムコーディネーターの小西美紀氏が司会を務めました。冒頭、森下哲朗グローバル化推進担当副学長、ProSPER.Net代表のアジア工科大学ディーパック・シャルマ教授、国連大学サステイナビリティ高等研究所所長の山口しのぶ氏および環境省大臣官房総合政策課環境教育推進室室長の東岡礼治氏がそれぞれ挨拶。「コロナや気候変動により、世界中で不公正や格差が拡大し教育にも大きな混乱がもたらされた。それでも持続可能な社会に向け国境を越え取り組んでいこう」と呼びかけました。

UNESCOバンコク地域事務所のワン氏は現地からオンラインで基調講演を行った

続いて、UNESCOバンコク地域事務所のリビン・ワン氏が「公正性と包摂性:アジア太平洋における高等教育の変革課題」と題して基調講演を行いました。ワン氏は、コロナの大きな影響を受け、教育の公正性と包摂性はその重要性が高まってきており、アジア太平洋地域の高等教育を再構築する重要なテーマだと述べました。そして、不利な立場にある人を分類し分析すること、学生募集段階から公正性と包摂性を考慮すること、さまざまな学問・研究分野に平等にアクセスできるようにすること、就職先も評価の対象とすることなど、具体的に提言しました。

次に、ProSPER.Net副代表で総合人間科学部教育学科の杉村美紀教授がモデレーターを務め、パネルディスカッションを実施しました。文部科学省高等教育局参事官(国際担当)の小林洋介氏、チュラロンコン大学教育学部のアタポール・アヌンサボラサクル氏、フィリピン大学ディルマン校のカール・オデゥリオ氏、宮城教育大学教育学部の市瀬智紀教授および本学大学院教育学専攻博士後期課程に在籍中のブレンソン・アンドレス氏が登壇。それぞれの専門や研究テーマに基づきプレゼンテーションを行い、教育における公正性と包摂性をめぐる最近の動向についての見識を共有。ProSPER.Net代表シャルマ教授が総括を行いました。

最後に、国連大学サステイナビリティ高等研究所イノベーションと教育プログラム長のジョンウィ・パク氏が閉会の挨拶に立ち、「教育における公正性と包摂性は一部門だけで達成できるものではない。高等教育機関、国連機関、民間セクター、政府間の協力が重要である」と締めくくりました。

持続可能な食システムへ:いかに転換させるか?

23日、持続可能な食料システムの構築へ向けて、オンラインシンポジウムが開催されました。地球環境学研究科の鈴木政史教授がモデレーターを務めました。

基調講演では、元欧州経済社会評議会農業・地域開発と環境担当ユニット長のエリック・ポンシュー氏が、欧州地域で推進されているFarm To Fork(農場から食卓まで)戦略について解説しました。これは食品が生産者から消費者に届くまでの一連の流れ(フードチェーン)の中で、自然環境、生物多様性、資源のそれぞれの保全を推進するための政策で、世界的にも注目を集めています。ポンシュー氏は「食料の生産、流通、消費、廃棄のあらゆる段階において、これまでの行動様式を変容させなければならない時がきている。そして、地球の環境を守りながら食の安全を維持するためには、これらの政策をEU域内のみならず、世界的にも普及させていく必要がある」と訴えました。

サステイナビリティ高等研究所やさまざまな企業からパネリストが参加した

続いて行われたパネルディスカッションでは、アサヒグループホールディングス、江崎グリコ、不二製油グループの各食品メーカーにおけるSDGsへの取り組みが紹介されました。また、国際連合大学サステイナビリティ高等研究所の竹本明生氏は、コロナウイルスや戦争などの地球規模の危機が、食料システムにも多大な影響を与えていることを指摘。参加者から「欧米では環境対策のために食生活を変える人も増えていると聞くが、人々の意識を変えるためにすべきことは何か」と質問が挙がると、パネリストは「企業側が消費者との接点を広く持ち、食にまつわる課題やそれに対する企業の取り組みを発信し続ける必要がある」と答えました。

最後に、本シンポジウムを共催したグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事の有馬利男氏が「SDGsの17番目の目標に掲げられている通り、国や企業、専門家、個人などが相互に協力し合い、継続的に取り組むことが重要だ」と締めくくり、盛況のうちにシンポジウムを終了しました。

東ティモールにおける国連の役割

国連の役割を語るパネリストの皆さん

国連が紛争解決に寄与してきた一つに東ティモールがあります。国連デーの24日、同国にどのような形で平和がもたらされたのか、パネリスト3人が平和創造や平和構築に係る国連の役割について論じるシンポジウムが開催されました。元国連東ティモール・ミッション政務官兼副報道官であり、現グローバル・スタディーズ研究科の植木安弘教授がモデレーターを務めました。

冒頭、国連広報センター所長の根本かおる氏が挨拶に立ち、アントニオ・グテーレス国連事務総長の国連デーメッセージを紹介。その後、来年9月に開催する国連未来サミットの重要課題の一つである「新たな平和への課題」を紹介し、今回のシンポジウムがこの議論につながっていくことを期待したいと述べました。

はじめに、元国連事務総長特別代表兼国連東ティモール・ミッション責任者のイアン・マーティン氏が登壇。1999年に同ミッションが設立され、国連が東ティモール問題にどのように関わってきたのか、独立を決定づけた住民投票を中心に写真を紹介しながら解説しました。「命の危険にさらされる治安の悪い状況下でのスタッフ派遣だったが、国連がスピード感をもって住民投票を実施したことは大きな成果であった」と強調しました。

次に、元国連東ティモール暫定行政機構人権担当官で現東京大学大学院教授のキハラハント愛氏が登壇し、東ティモールの奥地に事務所を構え、何百人という現地住民の人権に関わる相談や依頼を受けたエピソードを紹介しました。この経験を通じて「国連が正当性と関連性を保ち、いかに平和に寄与してきたかをあらためて伝えたい」と語りました。

最後に元国連事務総長特別代表兼国連東ティモール平和維持構築ミッション責任者で、現京都芸術大学特別教授、京都国際平和構築センター長の長谷川祐弘氏が登壇し、独立後に平和構築が成功した主な理由について説明しました。「最も重要なのは国連が東ティモールとの対話を重視し、国民目線に立って支援した点。もう一つは、東ティモールの指導者が、占領国であったインドネシアの指導者を裁判にかけようとせず、和解し、友好関係の道を選択した点にあった」と論じました。

参加者からは、貧困、教育をどの様に解決したのかなどさまざまな質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。

日本の開発援助はどこに向かうのか ―開発協力大綱の改定を受けて―

11月11日、今年6月に新たな「開発協力大綱」が閣議決定されたのを受け、新大綱が開発援助の実務や将来の研究、人材育成にどのような影響を与えるのかを議論するシンポジウムが開催されました。国際開発学会全国大会プレナリーを兼ねた国連Weeksのポスト企画として実施し、同大会実行委員長で総合人間科学部教育学科の小松太郎教授が司会を務めました。

はじめに、国際協力機構緒方貞子平和開発研究所所長の峯陽一氏が「新大綱と人間の安全保障―開発協力はどこへ行く?」と題して基調講演を行いました。峯氏は、大綱の改定に関する有識者懇談会に参画した経験を踏まえ、大綱の改定プロセスや構成などを詳しく解説。そして、大綱のなかで特に大切にしたいこととして「地方自治体や地方大学の国際協力への参加促進」「価値の共創への取り組み」「人間の安全保障の理念の深化」の3つを挙げました。

左から、峯氏、佐藤氏、伊豆山氏、松本氏とモデレーターの田中教授

基調講演を受けて、後半の討論に登壇する3人からコメントがありました。国際開発学会会長で東京大学東洋文化研究所教授の佐藤仁氏は、政府開発援助(ODA)について、過去を総括した上で未来を語ることが必要だと述べました。そして、国際協力に携わる人材育成の重要性とその具体的な方策を提言しました。防衛研究所理論研究部長の伊豆山真理氏(法国卒)は、インドやスリランカなど南アジアの国々から見た日本のODAの戦略的活用とその「安全保障化」に対する反応について述べました。法政大学国際文化学部教授で外務省開発協力適正会議委員を務める松本悟氏は、改定された大綱の運用のモニタリングと次期改定に向けた議論が必要であると説きました。

続いて、海外の研究者や市民社会のリーダーからのビデオレターを紹介。バングラデシュからダッカ大学政治学部教授のS・M・アリ・レザ氏、フィリピンからデ・ラサール大学国際学部教授のデニス・トリニダッド氏、ケニアからはアフリカ・プラットフォーム事務局長のポール・オクム氏が、同時期に創設された政府安全保障能力強化支援(OSA)や民間セクターの利益強化がもたらす課題を述べました。

最後に、峯氏、佐藤氏、伊豆山氏、松本氏が揃って登壇。総合グローバル学部の田中雅子教授がモデレーターを務め、会場からの質問に答える形で、人間の安全保障、OSA、ポストSDGsを見据えた共通の価値観の創造など、多岐に亘る討論が行われ、盛況のうちに3時間に及ぶシンポジウムを終了しました。

上智大学 Sophia University