上智大学国連Weeks June 2021 実施報告
2021年6月7日から21日まで、「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに「第15回上智大学国連Weeks June, 2021」が開催されました。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、2020年10月に続いて全ての企画をオンラインで実施しました。上智大学の学生の他、日本全国の高校生など国内外からの参加者は、延べ約1,200人に達しました。
国連平和活動:人道・平和構築・開発ネクサス
6月7日、第15回国連Weeksの初日を飾り、元国連事務総長特別代表(東ティモール)で特定非営利活動法人日本国際平和構築協会理事長の長谷川祐弘氏を招いて、シンポジウムが開催されました。国連の平和活動が、和平プロセスや紛争解決の促進だけでなく、人道支援や平和構築、さらにその後の開発支援への基盤作りを含む多面的なものとなっている中、そのネクサス(繋がり)に関するさまざまな問題について考える企画です。
曄道佳明学長および、シンポジウムに協力した内閣府国際平和協力本部事務局長の久島直人氏の挨拶に続き、長谷川氏が「ブトロス・ブトロス=ガーリの遺産-国連平和活動の変遷と残された課題」と題して、基調講演を行いました。冷戦時から冷戦後、そして現在の米中対立下までの国連平和活動の変遷や、92年から96年まで第6代国連事務総長を務めたブトロス・ブトロス=ガーリの遺産として、平和、開発、民主化の3つの課題を紹介。国連の平和活動の目的と成果を説明した後、国連改革の必要性など残された課題を挙げました。
次に、内閣府国際平和協力本部研究員の吉田祐樹氏が「治安部門改革(SSR)~治安と開発のネクサス~」と題して、研究発表を行いました。SSRとは、「治安部門の有効性」「政府および国民に対する説明責任」「人権や法の支配の尊重を促進」という目標を持つ、現地政府主導の国内治安機関のアセスメント、レビュー、推進、評価およびモニタリングなどのプロセスです。冷戦後、国家の安全保障から人間の安全保障に移行したことで、ヨーロッパを中心に治安部門の改革を目指すSSRの概念が誕生したと解説しました。そして、SSRは国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)の16「平和と公正をすべての人に」に最も貢献できると話し、今後のSSRの課題を挙げて報告を締めくくりました。
最後に、藤重博美青山学院大学国際政治経済学部准教授と、国際協力人材育成センター所長の植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授が加わり、質疑応答を行いました。SSRに関する具体的な質問が寄せられるなど、盛況のうちにシンポジウムを終了しました。
JICAの平和構築支援~国際機構との連携とその課題~
6月8日、「JICAの平和構築支援~国際機構との連携とその課題~」が開催され、国内外から300人以上が参加しました。この企画は、グローバル教育センターの東大作教授が企画・統括を務める「人間の安全保障と平和構築セミナー」を兼ねています。
独立行政法人国際協力機構(JICA)の上級審議役で元JICAアフリカ部長の加藤隆一氏を講師に迎え、JICAがどのように国際機関と協力し、平和構築支援を実行していくかについて、現場での経験を踏まえて講演いただきました。
アフリカでは、国家間の争いから国内紛争へとシフトし、かつ、再発することが多くなっています。ガバナンスが不十分な「脆弱国」が増え、コミュニティが不安定になることで、難民、貧困、不平等や格差などの問題が頻発している現状があります。
続いて加藤氏は、JICAの平和構築支援について説明。「JICAは、公正で包摂的な社会の実現を目標としており、平和と安定を確保し、紛争が発生・再発しない国・社会を作ることを重視している」と述べました。また、「難民支援においては、開発機関としてのJICAの強みを生かし、難民受入国への包括的支援、難民を対象とした人材育成、国際機関との連携強化を支援の3本柱としている」と語りました。
加藤氏は、最後に、「JICAは緒方貞子元理事長の方針を引き継いで現場主義を徹底しており、相手国を尊重する手法で信頼を勝ち得てきた。一方的な援助ではなく互いに学び合う姿勢が重要である」と述べ、講演を締めくくりました。
講演後、多くの質問が寄せられ、加藤氏は東教授と共にその一つ一つに丁寧に回答しました。
コロナ禍のSDGsへのインパクトと今後の展望
6月10日、新型コロナウイルスがSDGsに与える影響や、今後の展望について議論を行うことを目的として、シンポジウムが開催されました。
冒頭、曄道佳明学長の挨拶が行われた後、国連事務次長補・国連訓練調査研究所(UNITAR)事務局長ニキル・セス氏が基調講演を行いました。
セス氏は、SDGsの重要性について、「平和で公正な世界を作り上げるうえで必要不可欠」と説明し、「パンデミックによって20年ぶりに世界の貧困率が上昇した。特に、最も脆弱な環境にある人々に深刻な影響を及ぼしている」と強調しました。その上で、「SDGsの目標は、政府や企業だけのものではなく、一人ひとりがそれぞれの形で実現していくことが重要」と講演を締めくくりました。
続いて行われたパネルディスカッションでは、国連開発計画(UNDP)インド常駐代表の野田章子氏と、同駐日代表の近藤哲生氏がパネリストに加わり、諸目標を達成する上での課題などについて話し合いました。
司会を務めた植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授が「若い世代がどのような形でSDGsに貢献できるか」と尋ねると、近藤氏は「将来の世代に対して、暮らしやすい地球を残すことが最大の目標。若い世代は、豊かな感性と大きな発言力で世の中を変える力を持っている。今後、社会を牽引していく主役として、使命を果たしてほしい」と期待を寄せました。
第29回「国連職員と話そう!」~上智で見つける、国際協力への道~
6月14日、ベトナム国連常駐調整官事務所長の梅津伸氏を招いて、国際協力人材育成センター「国連職員と話そう!」シリーズの一つとして講演会を開催しました。
前半は、現役の国連職員である梅津氏が年代を追って自身のキャリアの軌跡を話しました。梅津氏は、91年に上智大学法学部国際関係法学科を卒業。ジョンズ・ホプキンズ大学修士課程を修了後、国連競争試験(政務部門)に合格し、95年に政務局から国連職員としてのキャリアをスタートしました。
国連安全保障理事会の旧ユーゴスラヴィア制裁委員会、イラク制裁委員会、アンゴラ制裁委員会などを担当。98年に国連事務総長代表カンボジア事務所のモニター(監視者)として勤務後、99年よりボスニア・ヘルツェゴビナで平和維持活動に従事しました。2000年にニューヨークの国連本部に戻り、政務局アジア・太平洋部、平和維持活動局アジア・中東部などで国連和平活動に取り組みました。その後ミャンマーでの勤務などを経て、20年1月から現職を務めています。
後半は、植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授をモデレーターに迎え、延べ170人の参加者からの質問に答える形で議論が進められました。梅津氏はさまざまな質問の一つ一つに丁寧に答え、「脳が柔らかい若い時代に興味の対象を広げておくことは自分の糧になる。インターネットやテレビからの情報をうのみにせず自分で調べることを身に付けてほしい」と述べ、好奇心と探求心の重要性を述べました。
オンラインによるキャリア・セッション「国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ」
6月15日から17日にわたり3日間連続で、国際機関や国際協力分野でのキャリアを考える学生などを対象に、キャリア・セッションが開催されました。
初日はまず、元国連人口基金(UNFPA)事務局次長、TAKUMI and Associates シニアコンサルタントの和氣邦夫氏が「新しい時代のグローバルリーダーになって日本や世界で社会改革に貢献しよう!」と題して、基調講演を行いました。和氣氏は、日本が直面する諸問題や変わりゆく国際環境、そしてその中でのリーダーの仕事を挙げ、期待する新しい時代のリーダー像を提示。国際協力分野を目指す学生などへエールを送りました。
続いて、浦元義照グログローバル教育センター特任教授がモデレーターを務め、キャリア・セッション1を実施しました。セッションには、和氣氏とUNFPA東京事務所長の佐藤摩利子氏が登壇。佐藤氏は「からだの自己決定権」をキーワードに、UNFPAの主な活動を紹介した後、自身のこれまでのキャリアの軌跡を話しました。
2日目は、小松太郎総合人間科学部教育学科教授をモデレーターに迎え、キャリア・セッション2を実施。まず、国連世界食糧計画(WFP)日本事務所代表の焼家直絵氏が、世界最大の人道支援機関でかつ国連唯一の食糧支援機関であるWFPの活動を紹介。続いて、国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所副代表(渉外担当)の河原直美氏が、世界中の難民や国内避難民を支援するUNHCRについて説明しました。
最終日は、キャリア・セッション3として山﨑瑛莉グローバル教育センター講師がモデレーターを担当。一般社団法人海外コンサルタンツ協会前専務理事の髙梨寿氏と公益社団法人日本ユネスコ協会連盟事務局長の川上千春氏が登壇しました。髙梨氏は、開発コンサルトとは「発展途上国を中心に多様な開発課題について専門的な技術と経験に基づき解決策を提案。具体的な実施を含め最後まで取り組み、地域・経済の持続的な発展に貢献する専門家」と説明。川上氏は、日本ユネスコ協会連盟の発足からの歴史と、発展途上国におけるノンフォーマル教育の充実を目指す「世界寺子屋運動」を紹介しました。
3日間を通して参加者から数多くの質問が寄せられ、盛況のうちに全日程を終了しました。