上智大学が近年、力を入れてきた研究力強化の取り組みが、杉村学長率いる新執行部の下でさらに前進しようとしています。研究力向上を基盤として、教育や社会貢献の可能性をどのように広げていくのか。学術研究担当副学長が語ります。
大学が持つポテンシャルの土台となるのが研究力
いま私たちが目指しているのは、教育重点型でも研究重点型でもない、第三の道です。
上智大学はこれまで教育面において国内外で高い評価を受けてきましたが、その背景の一つにあるのは確かな研究力です。高等教育の質を決める重要な要素の一つに、「その大学でしか学べない独自の知」があり、研究力の強化は必然的に教育力の強化につながります。逆に言えば、研究力が揺らげば教育の伸びしろも失われてしまうのです。
さらに、「教育」、「研究」と共に、近年、大学の使命として強調されるようになった「社会貢献」についても、研究力が大きな役割を果たします。大学が社会貢献を行う意義は、その独自の研究力を社会に生かす点にあるからです。
教育面で社会の信頼を集めながら、研究力でも勝負できる私立大学は決して多くはありません。新執行部が掲げる「教育」、「研究」、「社会貢献」の3本柱を支える土台として、研究力を底上げするという方針は、上智大学がこれからも存在感を発揮し、選ばれ続けるための重要な方策だと考えています。
上智ならではの研究色を打ち出す段階へ
上智の研究力を概観すると、人文社会系から理工系まで多彩な研究分野があり、どの分野も一定の水準を保っているというバランスのよさがまずあります。論文の被引用数や、外部資金獲得額などの指標では、かつては研究スタイルの特性から理工系分野が主力でしたが、この10年で人文社会系のそれらの指標も伸びており、論文の被引用数においては大学全体の指標をけん引するまでの水準となりました。人文社会系においても研究者が日本語だけでなく外国語で論文を書き、国際的に発信するようになったため、もともと高かった研究力を世界に知ってもらえるようになったことも大きく影響しています。このように、多彩な研究分野がワンキャンパスに集約されて、それぞれの強みを活かしながら、大学全体の研究力を高めていくのが総合大学である上智大学の研究のあるべき姿でしょう。
同時にこれからは、「上智と言えばこの研究」と旗印になるような特色をつくり出すことも大切です。といっても上智の性格からすると、特定の学問分野を重点化するというよりは、教育精神である「他者のために、他者とともに」に適った、社会課題の解決や生きづらさを感じる人たちへの寄り添いを志向する研究の豊かさを打ち出していくことになるでしょう。そうした多彩な研究が、国内外に張り巡らされた研究ネットワークと相まって、複雑な課題に包括的に取り組めるようになっていくことで、上智は教育、研究、社会貢献のいずれにも万全な力を発揮する知の拠点になる未来を切り拓いていきます。
研究力強化に向けて多様な取り組みが進行中
現在も、研究力のさらなる強化に向けて、さまざまな観点から多彩な施策を考案し展開しています。
まずは、若手研究者支援。国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の『次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)』の採択を受け、2024年度から「持続可能な社会の未来を拓くグローバル博士人材育成プロジェクト」がスタートしています。また、特別研究員(PD:Post-Doctoral Fellow)に対して、海外に一定期間行くことができる「グローバルPD制度」や、PDから助教になれる「特別助教制度」を設けました。
日本で若手研究者が育ちにくい要因の一つに、博士後期課程を満期退学した博士号未取得者のキャリアパスが、人文学、社会科学を中心に限られている状況がありますが、上智では大学独自のPD採用を上智大学出身者に限らず行うことにより、こういった境遇の人も活躍できる仕組みを提供しています。
一方、定年後の研究者にも活躍の場を用意しました。65歳を迎えても第一線で活躍できる研究者が多い中、退任後にも上智大学を自身の拠点として、外部資金を受け入れながら行う研究を支援する制度を整備しました。制度を利用する研究者には若手の指導役も担ってもらい、ベテランの支援と若手の支援を結び付けています。
そして、今後さらに力を入れなくてはならないのが、もっとも数が多い、若手でもベテランでもない主力の研究者層の支援です。彼らにとって圧倒的に重要な課題が、研究時間の捻出です。今年度から研究関連の事務窓口を一本化した「ファカルティサポートデスク」を設け、研究費の執行や雇用管理などをワンストップでできるようにしました。さらに外部資金を獲得した際に、一定割合までを非常勤講師や研究補助員の雇用に活用して自身の授業数や準備にかかる時間を減らせる「バイアウト制度」を、2022年度にいち早く導入し、今では広く活用されています。今後は、大型の外部資金を獲得して人件費にも投下すれば、自身の研究時間をより多く確保でき、研究でも教育でもこれまで以上の成果を生み出せる、という考え方を学内に広げていきたいと考えています。
研究力を引き継ぐということ
研究力は、伸ばすだけでなく、引き継がれ、個人を超えて続いていくものです。
若手研究者の育成に力を入れるのは、研究の知見や研究する文化を引き継いでほしいからに他なりません。また、研究力を還元した教育や社会貢献活動の成果を享受した人が、その体験を生かして活躍するのもまた、広義の研究力の引き継ぎだと考えます。
学部生は、専門的な研究を行う機会はまだ少ないかもしれません。しかし、授業やゼミを通して学内の研究に触れると、社会課題や未解明の事物に対して「ここまで知識が積み上がっているんだ」、「こういうアプローチができるんだ」、「世の中にこう生かせるんだ」と、研究の現状や可能性を知ることができます。それは、仕事でブレークスルーが必要な時に、いかなる手段を取り得るかを考えるヒントになると同時に、必要な時に必要な分野の専門家に頼る選択肢を与えてもくれるでしょう。
上智大学は、研究力の強化を土台に、その知を継承し、社会の革新に生かせる人材を育てようとしています。