単位の実質化による深い学びの実現~上智というスケールではなく、日本の高等教育を変える

学務担当副学長
文学部英文学科 教授
池田 真

「大学の学びは本当に充実しているのか?」。この問いに真正面から向き合おうと、上智大学は抜本的な改革に踏み出します。授業外学修時間の名目と実態の大きな差を要因とする「単位の実質化」の課題に、副学長就任以前から取り組んできた学務担当副学長が、これから手がける改革の内容を語ります。

日本の大学が見て見ぬふりをしてきた現実

日本の高等教育は、先進諸国の大学と比べるとかなり異質なところがあります。そのひとつが単位と学修時間の乖離です。大学設置基準という全大学共通のルールは、4年制大学の卒業には124単位以上が必要であると定めています。単位の質は学修時間によって担保され、授業時間1に対し、授業外学修時間2が想定されています。例えば、週1回の90分授業に対しては、週に180分の授業外学修が課されて初めて単位が与えられることになっているのです。

日本の大学の1、2年生は、週あたり12、13科目履修するのが当たり前。となると、例えば1科目90分の授業を12科目履修していれば、週に2,160分(36時間)、つまり土日も含め1日あたり5時間以上の授業外学修が必要です(上智大学は100分授業を採用しているため、90分授業の場合とは計算が異なります)。しかし現実には、そこまで勉強できている学生は多くはありません。

ある調査では、日本の大学生の半数は週に5時間以下しか授業外学修をしておらず、授業外学修が当たり前の欧米の大学生と比べて、学修時間は数分の1となっています。つまり、単位制が名目上でしか機能していないのです。これを本来の姿に戻し、ルール通りの学修時間を確保する取り組みが「単位の実質化」です。

授業外学修時間の不足は、学修の「質」にも影響します。授業中は基本的に教員の話を聞いて理解する、受け身姿勢の時間が多くなる傾向があります。対して授業外学修は、文献を読み、考えを巡らせ、自分の意見をまとめる作業が主です。2つの質が合わさってこそ「深い学び」になると言えますが、現状はその質が偏ってしまっているのです。

上智の答え――履修上限に新たなキャップを

単位の実質化を進めるうえで最も重要な取り組みは、セメスターあたりの履修上限単位数を定める「キャップ制」です。上智大学は、2023年5月に「学生の深い学びと単位実質化のための施策検討分科会」を設置。当時学事センター長であった私が分科会長を務め、1年かけて議論を重ねました。

結果、新しい「3つのポリシー」(ディプロマ・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、アドミッション・ポリシー)が導入される2027年度の入学者から、全学部の履修上限単位数を引き下げることが決まりました。併せて「開講科目の半数以上を週2回授業とする」「4年次生用の必修科目を開講する」ことも推奨事項としています。

授業外学修が週に数時間の学生も少なくない中、20、30時間の学修を習慣化するのは簡単ではないでしょう。そのため、さまざまなサポートを考えています。授業で課される課題が増えるであろうことから、学生に対しては、学修支援の仕組みを構築する予定です。統計やデータ分析について質問できるデータサイエンス・クリニック、レポートや論文の書き方を相談できるライティング・ラボなど、現在は個別に存在している学修サポートサービスを、統合的に発展させたいと考えています。

一方、課題が増えれば、教員には採点の負担がかかります。これを軽減するために、TA(Teaching Assistant:教育補助担当者)制度の見直しに着手します。また、FD(Faculty Development:教員の能力を向上させる組織的な取り組み)を充実させ、授業外学修の多様なバリエーションを紹介します。

単位互換制度も変更し、海外の大学との単位数を授業外学修時間も含めて互換できる仕組みを目指します。これが実現すると、「長期留学に行くと4年間で卒業するのが難しくなる」という懸念も少なくなるでしょう。

世界基準の高等教育を目指し、先陣を切る

日本の高等教育を世界基準に引き上げるには、単位の実質化は避けて通れません。この改革は大学の責任であり、日本の高等教育が抱える長年の課題への挑戦です。正面から取り組む大学は少なく、上智が成果を出せば他大学の改革も進むでしょう。

学生は、これまで以上に調査、分析、執筆などに時間をかけ、学問的な創造力を磨き、広く深く考える力を養います。これらは、基礎となる専門知識と統合され、エンプロイアビリティ(employability:雇われ続ける汎用的な能力)へと昇華されます。

もしかしたら、「勉強が大変だから上智には行きたくない」という高校生も出てくるでしょうか。ですが、全力で学び、力をつけた先輩たちの姿を見て、「大学って、何が身につくのかがイメージできていなかったけど、上智なら成長できそうだ」と新たに興味を持つ高校生も同じくらい、いや、より多く現れると信じています。

上智大学 Sophia University