10月11日から25日まで、「第16回上智大学国連Weeks October, 2021」が開催されました。
「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、すべての企画をオンラインで実施。上智大学学生のほか日本全国の高校生などが多数参加し、申込数は国内外から延べ約3,400人に達しました。

パンデミック下のグローバル・ヘルスガバナンスの課題

10月11日、第73回国連総会議長、元エクアドル外務大臣および国防大臣のマリア・エスピノサ氏を招いて、シンポジウム「パンデミック下のグローバル・ヘルスガバナンスの課題」(国際関係研究所、人間の安全保障研究所、グローバル教育センター共催、ソフィア会協力)を開催しました。司会は本イベントの統括を務めた東大作グローバル教育センター教授。海外からのアクセスも含め、約290人が参加しました。

講演するマリア・エスピノサ氏

森下哲朗グローバル化推進担当副学長および鳥居正男ソフィア会会長の開会挨拶の後、エスピノサ氏はルクセンブルクからの基調講演で、19カ月前から始まった新型コロナウイルスパンデミックを振り返り、「当初は健康の危機として始まったが、すぐに社会・政治・経済システムの危機に変貌し、それらの脆弱さ、既存の不平等を明らかにした」と述べました。「ウイルスを封じ込めるために世界の協調・団結が求められる中、国連の初動対応は困難に満ちたものだった。Covid-19 のパンデミック宣言が正式になされてから国連総会が開催されるまでに数週間を要し、医療品の供給が機能せず、安全保障理事会が解決策を見出すまでに3カ月かかるなど、非常に時間がかかったこと、ワクチンを途上国などに公平に分配する枠組みCOVAXも資金不足などでうまく機能していない」と現状を述べました。「健康は人間の権利であると認識し、この非常事態のためにグローバルなガバナンスを改革することは極めて重要であり、今を変化の時と捉え、平等で持続可能な社会を作っていくために我々皆がそれぞれの役割を果たす必要がある」と強調しました。

基調講演を受けて、東京都立大学の詫摩佳代教授、グローバル教育センター長の出口真紀子外国語学部英語学科教授、スチムソンセンターのリチャード・ポンジオ博士がそれぞれコメントを述べた後、参加者から活発な質問が寄せられました。それらの質問に丁寧に答えつつ、エスピノサ氏は、この未曾有の危機から学んだ多くのことを活かし、失敗を繰り返さないこと、Covid-19以外にもさまざまな地球課題がありそれらにも目を向けること、予想できない将来に不安にならず、ポジティブな面にも目を向け、グローバルな対話を重ねつつ、政府や国際機関だけでなく、人々やコミュニティが一丸となって困難に立ち向かっていくことを強調し、シンポジウムを締めくくりました。

紛争及び高リスク地域におけるビジネスと人権

10月12日、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)との共催でシンポジウムが開催されました。今年は国連「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されてから10年目。曄道佳明学長は挨拶で、その策定に尽力したジョン・ラギー氏(9月逝去)の功績を称え、シンポジウムを同氏に捧げると述べました。後援団体のビジネスと人権リソースセンター日本リサーチャーで代表の佐藤暁子氏(06法国卒)が総合司会を務めました。

「ビジネスと人権」を議論する登壇者の皆さん

最初の講演で、国連ビジネスと人権作業部会委員でワシントン大学のアニタ・ラマサストリ教授は、部会報告に基づき紛争地域での企業活動で特に重視される取り組みや課題を論じました。次の講演では、元国連国際ミャンマー独立調査委員会委員長で国際的人権団体代表のマルズキ・ダルスマン氏が、紛争下で政府と企業が果たすべき役割と行動を指導原則に基づき問題提起しました。

続いて3人のパネリストが加わりました。ミャンマーを拠点とする企業関係者からは「急激な経済悪化の中、多くの企業が進退を悩んでいる」と報告。第一生命ホールディングス経営企画ユニットフェローで同保険運用企画部フェローの銭谷美幸氏は「投資家として責任投資の観点からサプライチェーンでのビジネスと人権の取り組みを重視する」と指摘しました。浦元義照特任教授は「日本の進出企業は撤退でなく積極的に人権尊重を実践することが求められる」と述べました。その後、聴衆の質問に応え、紛争や高リスク下での指導原則に基づいた活動の重要性を中心に議論しました。

 最後に、有馬利男GCNJ代表理事は「今改めて人権に対する企業の責任、社会の中での価値が深刻に問われる」と述べました。

持続可能な社会を構築するための「社会変革」と森林

10月15日、森林・景観・生態系を守っていくために何ができるのか、また、なぜ社会変革が必要なのかを議論することを目的として、シンポジウムが開催されました。

柴田晋吾地球環境学研究科教授の進行のもと、冒頭、植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授が挨拶を行った後、ブリティッシュコロンビア大学のカイ・チャン教授が、「コロナ禍において社会変革を達成するには」というテーマで基調講演を行いました。チャン氏は、地球上の生物のうち、およそ100万種が絶滅のリスクに瀕しているとしたうえで、「環境保全のためには、大胆で継続的な市民活動が最も重要だ」と講演を締めくくりました。

柴田教授(上段左)、チャン教授(上段右)、 三次氏(下段)*基調講演での登壇者の皆さん

次に、国連食糧農業機関(FAO) 前事務局長補兼林業局長の三次啓都氏が、「なぜ社会変革が必要とされているのか」について基調講演を行いました。三次氏は「森林は、食糧問題と大きな相関関係を持ち、我々の生活に直結している」とし、農業に対する補助金や天然資源の活用などを例に挙げ、持続可能な森林管理の重要性を話しました。

続いて行われたパネルディスカッションでは、東洋大学国際観光学部国際観光学科准教授のローレンツ・ポッゲンドルフ氏、森林総合研究所の井上泰子氏、フィジー国立大学講師のサラニェッタ・ツゥスバ氏がパネリストに加わり、いかに Nature Positive(自然環境に良い影響をもたらす考え方)を推進していくかについて話し合いました。

井上氏は、途上国における植林によるカーボンオフセット(温室効果ガス削減への取り組み)、ツゥスバ氏はマングローブ域の持続可能な開発をそれぞれ紹介した。柴田教授は、「森・自然にとっては人がいない方が良いが、人にとっては森・自然なしではいられない」というドイツのことわざを引用しつつ、森・自然にとっても人が必要な社会づくりを目指すべきだと主張しました。また、ポッゲンドルフ氏は参加している若い世代に対して「個々が持っている可能性を信じて、これから自然とどのように付き合っていくかをしっかりと考えてほしい」と呼びかけました。

最後に、グローバル化推進担当副学長の森下哲朗法学部教授は、「上智大学においても、漸進的な変化ではなく、抜本的な変革を目指すような、世界に開かれた教育を目指していきたい」と締めくくりました。

UNEP職員と考えよう!ごみ問題とSDGs

10月18日、国連環境計画国際環境技術センター(UNEP-IETC)との共催でシンポジウムが開催されました。モデレーターを務める植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授の冒頭挨拶の後、UNEP化学物質と保健課課長でIETC主席統括官のモニカ・ゲイル・マクデベット氏がビデオメッセージを寄せ、来年50周年を迎えるUNEPの活動を紹介しました。

前半は、UNEP職員のディリー美里氏と藤岡純子氏が、それぞれ「ごみ問題と気候変動」「ごみ問題とジェンダー」と題してミニレクチャーとQ&Aセッションを実施。「ごみ問題はSDGsのすべてに関係している。できることから始めよう!」と呼びかけました。

後半は、パネルディスカッションの導入として、UNEP職員の本多俊一氏がサステナビリティアクションを説明。パネルディスカッションには、HAYAMI草ストロー代表の大久保夏斗氏とGreen Sophia(上智大学環境保護サークル)の学生メンバー2人が加わり、それぞれの活動を紹介しました。活発な意見交換があり、環境対策への共感を広げSDGsを自分事化するという目標を共有し、シンポジウムを終了しました。

オンラインによるキャリア・セッション「国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ」

10月19日と21日に、国際機関や国際協力分野でのキャリアを考える人たちを対象にキャリア・セッションが開催されました。

初日は、国連コソボ暫定統治機構セルビア・ベオグラード事務所長兼国連事務総長代表の山下真理氏(88法国卒)が、「国際平和と安全:国連キャリアの観点」と題して、基調講演を行いました。

10月19日に基調講演を行った山下真理氏

続いて、植木安弘グローバル・スタディーズ研究科教授がモデレーターを務め、キャリア・セッション1を実施。山下氏に加えて、国連訓練調査研究所持続可能な繁栄局長兼広島事務所長の隈元美穂子氏、および国連食糧農業機関駐日連絡事務所長の日比絵里子氏(87法国卒)が登壇。それぞれに自身のキャリアと国連で働くやりがいなどを話しました。

21日は、浦元義照特任教授をモデレーターに迎え、キャリア・セッション2を実施しました。国連開発計画駐日代表の近藤哲生氏、世界銀行駐日特別代表の米山泰揚氏、およびアフリカ開発銀行アジア代表事務所副所長の木下直茂氏が登壇。国家公務員、民間企業、国際機関などさまざまな場所で働いた経験を話しました。そして、まず何をやりたいかという熱意、次に専門分野を持つこと、最後に語学力、この3つが大事だと強調しました。

両日とも高校生や大学生を中心に多数の参加者があり、熱心な質疑応答が交わされました。

混乱した世界での持続可能な開発目標の達成と若者の願望の実現

10月20日、アミーナ・モハメッド国連副事務総長による特別講演会が開催され、学生を中心に約800人が世界中からオンラインで参加しました。本講演会はグローバル教育センターの東大作教授が企画や交渉を担当、当日の進行を務めました。

モハメッド氏は、ナイジェリアで環境大臣を務めた後、2017年3月に事務総長に次ぐ国連ナンバー2である副事務総長に就任しました。国連のポスト2015開発アジェンダ担当特別顧問として、当時の潘基文事務総長を補佐し、SDGsが初めて明記された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の合意に大きな役割を果たしたことで知られています。

講演するアミーナ・モハメッド国連副事務総長

冒頭、佐久間勤理事長、曄道佳明学長および国連広報センター所長の根本かおる氏が登壇し、モハメッド氏への感謝の言葉とSDGsの実現に向けた期待を述べました。

モハメッド氏は、コロナ禍や気候変動、不平等の拡大、紛争の急増など不安や不確実性に直面している現状を述べながらも、「未来に向け私たちは無力でも絶望的でもないし、若者の声と協力があれば道を切り開くことができる」と話しました。そして「採択から6年が経過したが、コロナ禍の影響もあり、2030アジェンダは軌道に乗っていない。実現に向け私たちは一丸となって行動しなければならない」としました。そのために「公平なワクチンの分配」「貧困をなくすための社会的保護プログラムの拡大」「質の高い基本的なサービスの提供」「カーボンニュートラルかつグリーンな社会への移行」「誰も取り残さない持続可能な開発のための新たなパートナーシップの構築」の5つの重要な分野での行動を訴えました。

講演後、総務担当理事のサリ・アガスティン総合グローバル学部教授が、教皇フランシスコの回勅に触れつつ、SDGs推進の負の部分や教育機関として注意すべき点について質問。続いて、参加者を代表してマレーシア、スペイン、コロンビア、リベリアおよび上智大学(日本)の学生5人が、「教育格差」「軍事介入を容易にする改憲への国連の関与」「児童労働問題への取り組み」など、さまざまな質問を投げかけました。モハメッド氏はその一つ一つに丁寧に答え、東教授が「世界中がオンラインでつながる今、共に行動できるかが勝負」と締めくくりました。

持続可能な社会に向けたエネルギーと太陽電池

10月22日、理工学部共催のシンポジウムが開催されました。冒頭、進行役の竹岡裕子物質生命理工学科教授が、SDGsの7番目の項目である「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を挙げ、シンポジウムの趣旨を説明しました。続いて、陸川政弘理工学部長から「SDGsを研究対象として見てきたが、国連Weeksへの関わりを通じて一市民として行動する必要があると気付かされた。本日も皆さんと共に学び、今後の糧にしていきたい」と挨拶がありました。

講演する宮坂力教授

はじめに、東京大学未来ビジョン研究センターの高村ゆかり教授が登壇。「2050年カーボンニュートラルに向かう世界エネルギーの脱炭素化と再エネへの期待」と題し、気候変動問題を具体例で紹介しながら、温室効果ガスを排出しないエネルギーの在り方や将来の社会をどう選択するかなどを分かりやすく解説しました。高村教授は、参加者の質問にも一つ一つ丁寧に回答しました。

次に、ペロブスカイト太陽電池の発明者として知られる桐蔭横浜大学医用工学部の宮坂力教授が、「カーボンニュートラル社会に資するペロブスカイト太陽電池の開発」と題して講演しました。日本のエネルギー事情や、太陽電池の種類、効率、コストなどを紹介。国内でほぼ材料を調達でき安価で提供可能、かつ発電効率の高いペロブスカイト太陽電池について、動画や詳細なデータを用いて説明しました。

予定時間を超過しての活発な質疑応答の後、江馬一弘機能創造理工学科教授が閉会の挨拶を述べ、国連Weeksの最後を締めくくりました。

上智大学 Sophia University