グローバル化が加速する中、上智大学は国際社会でリーダーシップを発揮できる人材を育成するために、英語で行われる授業のみの履修で学位(学士)を取得できる「英語学位プログラム(English-taught Program)」の拡充に力を入れています。その現状と今後の展望を、社会連携担当の神澤信行副学長が語ります。
専門分野を英語で学び、学位を取得できるプログラム
上智大学の学部レベルの英語学位プログラムには、国際教養学部(FLA:Faculty of Liberal Arts)、持続可能な未来を考える6学科連携英語コース(SPSF:Sophia Program for Sustainable Futures 以下、SPSF)、そして理工学部英語コース(グリーンサイエンスコース:Green Science Program, グリーンエンジニアリングコース:Green Engineering Program)があります。
本学の国際教養学部は、1949年に日本で初めて全授業を英語で行う大学教育課程として設置された国際部を前身とし、多様な分野を網羅するリベラルアーツ教育を実施しています。また、少人数で議論を中心とした授業を特徴としています。国内外から学生が集まり、多様な視点を育むことで、国際社会に貢献できる人材の育成を目指しています。
SPSFは、学生が人文・社会科学系の6学科*のいずれかに所属し、専門分野を学びながら、「持続可能な未来」を共通テーマに探究していくプログラムです。学際的な専門分野を英語で深く学びたい学生のニーズに応え、近年、人気を集めています。
*文学部 新聞学科、総合人間科学部 教育学科、総合人間科学部 社会学科、経済学部 経済学科、経済学部 経営学科、総合グローバル学部 総合グローバル学科
理工学部英語コースは、2コースあります。物質生命理工学科にあるグリーンサイエンスコースと、機能創造理工学科のグリーンエンジニアリングコースです。
2027年度には、この2コースを発展させ、「デジタルグリーンテクノロジー学科」(略称:DG Tech/設置構想中)を新たに開設する予定です。新学科では、持続可能なグリーン社会の実現に向け、データサイエンスやデジタル技術をカリキュラムの中心に据え、既存の理工学分野との複合的な学びを提供していきます。
この新学科は、これまで以上にグローバルな学びの環境を実現したいと考えています。そのため、国際的な人材の確保を目指し、定員の半数を留学生とする計画です。現在の理工学部英語コースは、少人数制という利点がある一方で、履修できる授業が限定される傾向にあります。学科として新設することで専属の教員が配置されると同時にカリキュラムが拡充され、学びがより充実したものになるでしょう。国際バカロレア(IB)コースを設置している高校に訪問した際、進路指導担当の教員から「英語で理工学を学びたい生徒にとって、デジタルグリーンテクノロジー学科は国内の進学先として貴重な選択肢になりそうだ」という期待の声を頂くなど、理工分野を英語で学べる学科の意義を感じています。
新学科を設置するにあたり、卒業後の進路を見据えた「出口戦略」も必要です。大学院への進学も諦めないでほしいですし、できれば日本で活躍する人材になってほしい。奨学金の確保に加え、留学生に向けて日本語を学ぶ授業や日本で就職するためのキャリア支援も充実させたいと考えています。
上智大学が入学者に求める英語力とは
本学は近年、一般選抜において外部英語検定試験の活用を進めてきました。「聞く」「話す」「読む」「書く」の英語4技能をバランスよく身につけておいてほしいと考えるためです。すべての技能において受験生が目指してほしい英語力の目安を、学部学科によっても異なりますが、概ね英検2級レベルと考えています。
一方、英語学位プログラムでは、より高いレベルの英語力が求められます。日本の一般的な高校とは異なる教育制度で学んできた生徒が多いことを考慮して、入試ではSAT (大学進学適性試験)やTOEFL(R)またはIELTSの公式スコア、英語エッセイなどを課して、選抜の公平性を保っています。
入学者の多くがインターナショナルスクールの卒業生や国際バカロレアの修了生ではあるものの、英語力にばらつきがあるのも事実です。そのため、基礎的なアカデミック・イングリッシュ・スキルを習得する授業をカリキュラムに組み込むなど、英語力を磨くサポート体制を整えています。
英語で学び、英語で議論する真の価値
かつて、英語は海外の先行研究に触れるために不可欠でした。今もそうした側面はありますが、一国では解決できない地球規模の課題に向き合うには、自ら情報を発信し、世界中の人々と議論し、新しいものを創造することが必要です。また、私自身の海外経験を振り返っても、日本語の環境と、英語の環境とでは、課題に対するアプローチやアイデアの創出方法に違いがあります。違いを理解したうえでリーダーシップを発揮し、人を巻き込むためにも、言語の壁はないほうがよいでしょう。
近年、多くの大学が帰国生入試を取りやめていますが、本学は今も継続しており、志願者が増えている状況です。海外で学んだ学生は、日本で育った学生とは異なる思考や発想力を持っていることが多く、そうした多様な学生を迎え入れることは、大学にとっても、本学で学ぶ学生にとっても大きなメリットです。
文系・理系の枠を越えて、自由に学び合える環境を実現していること、これが上智大学の大きな強みだと言えるでしょう。