10月8日から24日まで「国連の活動を通じて世界と私たちの未来を考える」をコンセプトに、「第22回上智大学国連Weeks October,2024」が開催されました。写真展を含む全8件の多彩なプログラムが展開されました。

SDGsに貢献する先端化学技術

8日、理工学部との共催で「SDGsに貢献する先端化学技術」をテーマとした講演会が開催されました。 人類の持続的発展を維持するために、化学技術がどのように達成目標(SDGs)に貢献できるのかを模索する機会として、理工学部物質生命理工学科の鈴木教之教授と高橋和夫教授が企画。ゲストに、二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラルな自動車・航空機燃料の開発に携わる橋本公太郎博士(株式会社本田技術研究所先進パワーユニット・エネルギー研究所チーフエンジニア 兼 日本燃焼学会理事)と、生鮮食品の長期保存に貢献する触媒技術を研究する福岡淳教授(北海道大学触媒科学研究所)を迎えました。

まずは、橋本博士が「モータースポーツで加速し、ジェットで空へはばたく、Hondaのカーボンニュートラル燃料技術」と題し講演を行いました。温室効果ガス排出量削減活動である「2050年ネットゼロ目標」実現に向けて、各国の目標設定の足並みが揃っていないと国際動向を説明したのちに、Hondaが挑む燃料のカーボンニュートラル化の取り組みを解説。「カーボンニュートラル化を目指して、Hondaはマルチパスウェイ(=多様な選択肢を準備すること)で研究開発を推進している。なかでも、カーボンニュートラル燃料は、2026年に再参戦するF1レースや、近年需要が拡大している航空機事業での活用を目指して取り組んでいきたい」と意気込みを述べました。

次に、福岡教授が「フードロス削減に貢献する触媒技術」と題し講演。国内のフードロス問題において家庭系食品ロスの量が減っていない現状を指摘し、自らの専門領域である触媒技術を青果物の鮮度保持に活かすために行った数々の実験のプロセスを図表とともに解説しました。最終的に研究成果がどのように社会へ還元されたのかを、家庭用冷蔵庫や企業の貯蔵庫などを例に紹介し、「フードロス削減は温暖化対策の近道にもなる。今後も企業との共同事業などを通じて、環境に優しいプラチナ触媒の普及を進めていきたい」と技術への期待を語りました。

講演後には150人を超える会場・オンラインの参加者から、他分野への応用性やコスト削減の可能性などの様々な質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。SDGs達成を目指すうえで化学技術の発展は不可欠であると改めて認識し、大きな関心と今後への期待を全員が共有して盛況のうちに終了しました。

ガザの新たな平和と復興~国連事務次長補を招いて~

15日、UNDP(国連開発計画)ニューヨーク本部のアラブ担当局長でガザの復興責任者を務めるアブダラ・アル・ダルダリ国連事務次長補を招き、同地区の平和と復興をテーマとするオンライン講演会を開催しました。

はじめに、司会・統括を務めるグローバル教育センターの東大作教授が、ガザ地区の戦況と本講演の開催趣旨について説明。続いて、サリ・アガスティン上智学院理事長による冒頭挨拶が行われました。

続いて、ダルダリ国連事務次長補による講演が3部構成で行われました。第1部は、レバノンでの紛争が地域経済に与えている影響について。紛争は、レバノン経済へ計り知れないダメージを与えるのはもちろんのこと、難民の移動やスエズ運河海運の減少、海外からの直接投資の減少といった理由により、隣接国シリアばかりでなく、サウジアラビア、カタールといった周辺諸国の経済にも悪影響を与えていることが伝えられました。ダルダリ氏は、これら地域全体の復興を考えることが議論の出発点であると語りました。

第2部では、パレスチナの経済復興について、「早期回復なし」「限定的早期回復」「無制限の早期回復」という3つの異なる想定のもと、各パターンにおける10年後の試算が発表されました。これらシミュレーションの中でダルダリ氏は、パレスチナが10年後に2022年時点のGDPまで回復するためには、年間2.8億ドルの人道支援に加え、2.8億ドルの開発支援が必要であると述べました。

第3部では、UNDPが爆撃下にあるガザ地区で実際に行っている支援について報告が行われました。UNDPのチームは、停戦を待たずしてゴミ処理、がれきの管理、不発弾撤去、中小企業の支持、学校の再建といった地域に根差した活動を行っていることが伝えられました。

講演の最後にダルダリ氏は、復興計画は全て、停戦が実現して初めて実行可能になるものであり、とにかく停戦が必要だと強調しました。そしてイスラエル、パレスチナ双方の市民が未来に希望を持てるようになるため、我々全員が関わる必要があるとして、日本を含む国際社会からの支援を呼びかけました。続く質疑応答では、学生4名を含むオンライン参加者から、「持続可能な支援」、「教育」、「平和構築」、「ガバナンス」、「日本ができる支援」といったテーマでの質問が上がり、活発な議論が行われました。

戦争犯罪と人権の保護

10月17日、上智大学国際協力人材育成センターとの共催でシンポジウム「戦争犯罪と人権の保護」が行われ、オンライン150名、対面25名が参加しました。シンポジウムは、近年、地域紛争や内戦の状況下で戦争犯罪をはじめとしたさまざまな人権侵害や国際人道法違反が起きており、国際社会においてこれらの事態の対処に何が必要かを共に議論することを目的としており、国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授がモデレーターを務めました。

冒頭では、尾崎久仁子氏(中央大学法学部、元国際刑事裁判所裁判官)が基調講演を行い、武力紛争などの緊急事態における人権侵害の特徴と国際機関の役割、国際刑事裁判所の活動について解説が行われました。続いて、Dimiter Chalev氏(国連人権高等弁務官事務所 法の支配部長)がスイス・ジュネーブからオンラインで登壇し、民間人の犠牲者が多数出ている近年の深刻な状況を紹介し、武力紛争は不処罰(Impunity)という状況下で行われており、国連加盟国・国際機関としてはそれらが許されないことであることを示してゆくことが必要であると強調しました。

次に、根岸陽太氏(西南学院大学法学部教授)が登壇し、「戦争における人権保障-危機と平常のはざま-」と題して、危機を考える上での2つの視点、戦争における脆弱な人々の法的保障および戦争における人権保障義務の遵守について解説しました。講演の最後は菅野志桜里氏(国際人道プラットフォーム代表理事)により、「日本とジェノサイド条約」と題し、永年国際社会から要請を受けながら日本が加盟していない「ジェノサイド条約」への日本政府の対応経過の紹介がありました。

シンポジウム後半はパネルディスカッションとなり、植木教授から登壇者へ、会場やオンライン参加者からも登壇者へ、さまざまな質問が投げかけられました。世界に広がる多くの危機に対する関心と不安を共有し、この憂慮される事態に国際社会は今後どのように対処してゆくべきかを共に考える時間となりました。

自治体・企業の地域規模の気候変動問題への取り組み:地域開発・発展及び社会的課題とのインターリンケージ

18日、世界規模で引き起こされる気候変動の現状と、自治体や企業の先進的な脱炭素の取り組みおよび再生可能エネルギー導入について理解を促進するためのシンポジウムが行われた。国際連合大学サステナビリティ高等研究所の丸山鳴氏が総合司会を務めた。

基調講演では、国連システム学術評議会(ACUNS)会長のフランツ・バウマン博士がオンラインで登壇し、世界で深刻化する気候変動の現状について写真を交えながら紹介した。そして、地球規模の気候変動という課題に対して「その原因と結果について深く理解したうえで、ひとりひとりが地球の行く末に責任を持つことが大切だ」と警笛を鳴らした。

続いて行われたパネルディスカッションでは、川崎未来エナジー株式会社代表取締役社長の井田淳氏、花王株式会社川崎工場工場長の古河崎耕志氏、東急電鉄株式会社経営戦略部総括課課長の五島雄一郎氏、川崎市環境局脱炭素戦略推進室脱炭素化推進担当担当課長の加藤剛史氏、同志社大学政策学部の中島恵理教授が登壇。地球環境学研究科の鈴木政史教授がモデレーターを務め、バウマン氏もコメンテーターとして参加した。

本シンポジウムでは、民間企業、自治体、学術機関のそれぞれの立場から、脱炭素の取り組みや再生可能エネルギーの導入などの意見交換する貴重な機会となった。鈴木教授は「これらの各セクションが連携し合い、知見を融合することで新たな創造性が生まれ、地球規模の課題を解決するきっかけになる」と締めくくり、盛況のうちに閉幕となった。

国際機関・国際協力 キャリア・ワークショップ

21日、国際機関や国際協力分野でのキャリアを目指す人を対象にキャリア・ワークショップを開催しました。冒頭、モデレーターを務める国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授から本日の登壇者の紹介がありました。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日代表の伊藤礼樹氏による基調講演では、同氏のキャリアやUNHCRの業務内容に触れながら、国際機関で働くことの魅力が紹介されました。伊藤氏は、国際機関で働くうえでの心構えとして、「正解のない世界において多角的な視点で物事を分析すること、そして自らの倫理基準のもと、ときにはリスクを背負いながらも本質を見極めて行動することが重要」と説明し、国際協力の分野での活躍を志す参加者にエールを送りました。

後半のワークショップでは、伊藤氏に加えて、経済協力開発機構(OECD)統括局長のジョゼ・トゥシェット氏、同ケイト・コーンフォード統括局参事官、外務省国際機関人事センターの美土路昭一氏、国連開発計画(UNDP)管理局人事部のジャンリュック・マセラン氏、GR Japan シニアコンサルタントの浦元義照氏のほか、上智大学国際協力人材育成センター所員らが参加。各ブースでは、学生や高校生がキャリアの相談や仕事の魅力について熱心に聞く姿が見られ、会場は大いに盛り上がりました。

世界遺産:平和で持続可能な社会へ

23日、一般財団法人 Pale Bleu Dot (PBD)との共催でシンポジウム「世界遺産 :平和で持続可能な社会へ」が開催され、オンライン74名、対面24名が参加しました。本シンポジウムは、人類の共有財産であり、かけがえのない歴史的価値や壮大な美しさを持つ世界遺産が、世界平和、相互理解、持続可能な開発、環境保全の促進などへどのように貢献できるかを探求することを目的として実施されました。

冒頭では、総合人間科学部教育学科の杉村美紀教授と、一般財団法人Pale Bleu Dot理事長であり前ユネスコ・バンコク事務所長の青柳茂氏が順に開会の挨拶を行いました。青柳氏は「世界遺産を通じて地球規模の課題を解決する可能性を考えてほしい」と参加者に問いかけ、続く基調講演のセッションへと移行しました。

前半では、河野俊行氏(九州大学法学研究院 特任研究員、国際記念物遺跡会議(ICOMOS)名誉会長)とエティエン・クレモン氏(カンボジア文化大臣顧問、元ユネスコ・アピア事務所 所長)が、それぞれの専門的視点から世界遺産と平和、社会課題との関連性について講演を行いました。河野氏は、原爆ドームが世界遺産に認定された事例を挙げ、「世界遺産という制度そのものが、多国間の連携を通じて長期的に世界の課題に取り組む枠組みとなり得る」と述べました。また、クレモン氏は「世界遺産に関わる国際的な合意を維持するためには、教育が鍵となる」と強調しました。

後半のパネルディスカッションでは、青柳氏の司会を務め、川上千春氏(公益社団法人 日本ユネスコ協会連盟 シニアアドバイザー、元事務局長)、そしてオンラインで岡橋純子氏(聖心女子大学現代教養学部国際交流学科 教授)とクリスチャン・マンハート氏(ハノイ市政策アドバイザー、元ユネスコ・ハノイ事務所長)も参加しました。「世界遺産が各国の相互の関心事になり共通の未来を考えることに繋がること」や「地域社会における世界遺産の重要性の高まり」について多角的な視点から意見が交わされ、活発な議論が時間一杯まで続けられました。

人道支援におけるイノベーション:なぜ必要か、誰のためか

10月24日、上智大学国際協力人材育成センターとの共催でシンポジウム「人道支援におけるイノベーション:なぜ必要か、誰のためか」を開催しました。本イベントは2部に分かれ、第1部では、国際協力人材育成センター所長の植木安弘特任教授の司会のもと、10月24日の国連デーの特別企画として、国連広報センター長の根本かおる氏の挨拶の後、アントニオ・グテーレス国連事務総長による国連デースペシャルビデオメッセージが上映されました。メッセージの中でグテーレス事務総長は、若者の存在に期待し、国連を正しく理解し、関心が高まることを願うと述べました。

第2部では小松太郎総合人間科学部教授の司会により、人道支援におけるイノベーションの意味や役割について考えるシンポジウムが行われました。オンラインによる登壇者は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)からTara Budziszewski氏、国連世界食糧計画(WFP)の大垣友貴美氏、会場登壇者は国連児童基金(UNICEF)のRegina De Dominicis氏の3名で、それぞれの機関における人道支援分野でのイノベーション事例の紹介の後、パネルディスカッションが行われました。

人道支援におけるイノベーションとはそもそも何なのか、共通要因が浮かび上がったところで、小松教授からパネリストへ、どうしたら革新的なやり方をスケールアップできるか、技術の利活用について、イノベーションにかかるリスクなどについての話題が提起され、3名のパネリストからそれぞれの経験に基づいた知見の共有がなされました。

シンポジウム終盤では会場およびオンライン参加者からの質問も多数寄せられました。質問の中にはAIの活用について、ガザ地区で行われている人道支援のイノベーションの事例など、タイムリーな質問が次々投げかけられ、それぞれパネリストが時間の許す限りコメントしました。

シンポジウム参加者は会場・オンライン合わせて180名を超え、喫緊の課題である人道支援についての関心の高さがうかがえました。多くのことを語り合うことができ、進化しつづけるイノベーションについて、課題や考えを共有する貴重な機会となりました。

上智大学 Sophia University