第2章
継承と展開
-1990年代中頃~現代まで-
1990年代から顕著となった18歳人口の減少、2020年のコロナ禍などの社会情勢は、上智短大のあり方に大きな影響を及ぼしました。本章では1990年代中頃から閉学までの上智短大について入試制度改革、カリキュラム改革という視点から紹介するとともに、学生募集停止に至る経緯をみていきます。
第1節 上智短大を取り巻く状況と入試制度の改革
(1)1990年代の上智短大と入試制度改革
1980年に体育館、1985年に3号館(管理棟)、1994年に4号館(図書館・研究棟)が竣工し、上智短大の教育研究施設が完成しました。一方で、 短大を取り巻く情勢は、決して楽観できるものではありませんでした。1992年をピークとする18歳人口の減少や、高学歴化による女子の4年制大学進学志向の高まりを背景に、上智短大も1992年以降、志願者数が減少していきました。全国の短大と同様に、志願者数の確保が喫緊の課題となったのです。そこで上智短大が取り組んだのは、入試制度の改革とこれまで以上に充実した進路支援でした。
1998年12月、入試制度検討委員会を設置し、入試制度の見直しに着手しました。検討を重ねた結果、翌99年11月に公募制推薦入試を導入します。これは、志願者を広く全国から募り、高校の学習成績、課外活動、社会活動などの実績をふまえて、英語基礎能力テストと面接で学科への適性、なかでも勉学への熱意を評価するというものでした。さらに、2001年11月には英語検定特別入学試験、翌02年11月には卒業生子女入試、04年3月には一般入試B日程を導入します。さらに2008年度には大幅な入試改革を行い、第1期AO入試、英語検定特別入試B方式、帰国生特別入試、社会人特別入試、第2期AO入試、一般入試C日程を導入しました。
資料番号:『上智の100年』126頁
特筆すべきは、サマースクール入試とも呼ばれた第1期AO入試です。この入試は本学での宿泊を伴い、日中は教室での授業に参加して、調べ学習によって知識を広げ、それをもとに論文を作成し、最終的に学修成果を発表するというものでした。
また、入試制度の改革とあわせて、それまで上智大学のオープンキャンパスで短大の相談コーナーを設けていましたが、2000年7月からは秦野キャンパスでも短大独自のオープンキャンパスを開催するようになりました。
このように上智短大は、学生確保に向けた積極的な活動を展開していくことになります。
(2)きめ細やかな進路指導
上智短大提供
1991年の大学設置基準改正により、短大・高等専門学校から4年制大学への編入の道が拡大しました。上智学院でも2001年4月、上智短期大学生特別編入学試験制度を創設します。この制度は、上智短期大学長の推薦に基づき、上智短大生が上智大学への特別編入学試験を受験することができるというものです。それまでの上智短大生の進路は、就職が全体の6割から8割を占めていましたが、この年を境に上智大学や他大学へ編入学をする学生が徐々に増えていきました。こうした変化を受け、上智短大は、就職と進学の双方を見据えた高等教育機関としての役割を強化し、学生一人ひとりの進路希望に応じた、よりきめ細やかな進路指導を行いました。
第2節 新たな旅路へ
(1)グランド・レイアウトと校名変更
上智短大をめぐる環境の変化を上智学院はどのように捉えていたのでしょうか。これを考えるうえで重要な資料が、2001年5月に発表された学院の中長期計画「グランド・レイアウト」*です。このなかで上智短大の将来については、「特別委員会を設置し、一年を目途に成案を得るよう努力する。広大な秦野キャンパスの利用計画案を策定する」(『上智大学通信』第271号)と述べられています。これを受けて、グランド・レイアウト実現のために設けられた長期計画企画拡大会議の場で、短大のあり方について議論されることになります。
この後、2006年からの「グランド・レイアウト」第2期においても、引き続き短大のあり方が議論されてきました。その結果、2012年4月、上智大学とのより一層の連携強化、学びの機会拡充などを目的として短大は、「上智大学短期大学部」と名称変更することになるのです。
*2001年5月30日「グランド・レイアウト」(理事会最終成案)(https://www.sophia-sc.jp/disclosure/grand_layout/layout2001)参照
(2)カリキュラムの工夫
2001年のグランド・レイアウト発表後、上智短大ではカリキュラム改革を積極的に進めました。
カリキュラム改革
2003年4月、習熟度別の英語選択必修科目(英語スキルズ科目)を導入し、さらに同年8月には「海外短期語学講座(短期留学)」を新設します。これらは、「学生に寄り添う」という方針のもと、一人ひとりの英語力や学習ニーズに応じた教育を実践することを目的としたものでした。さらに、2005年4月にはコース制が導入され、「異文化理解」「英米文学研究」「言語研究」「児童英語教育(2009年度以降は言語教育)」の4つのコースが設定されました。また「ゼミナール」の開設、個別の指導教員の下で研究、その成果を口頭発表し、評価を受ける「インデペンデント・スタディ」の開講、教員組織である英語能力向上ワーキンググループの発案で始まった「All English Day」が開始されたのもこの年です。
資料番号:『上智の100年』128頁
上智短大提供
こうしたカリキュラム改革を通じて、学生が主体的に学び、自らの考えを英語や日本語で発信する力を培う教育環境が整備されていったのです。
さらに、高等学校から大学への学びの橋渡しとして、2011年度から1年次春学期に「基礎ゼミナール」が導入されました。これにより、1年次秋学期の「プレゼミナール」、2年次春学期の「ゼミナールⅠ」秋学期の「ゼミナールⅡ」へとつながる2年間の一貫したゼミナール制度が確立されました。
なお、「基礎ゼミナール」では、上智短大独自の教材『ESSENTIALS』が使用され、この教材には大学生としての心構え、アカデミックスキル、キャリアへとつながる内容などがまとめられていました。また、英語必修科目の副教材『English Essentials』も開発され、これらの教材開発の取り組みは、2009年度および2010年度の上智学院教育イノベーションプログラムに採択されました。
資料番号:『上智の100年』138頁
上智短大提供
家庭教師ボランティアの展開
また第1章第2節「地域社会とともに」で取り上げた家庭教師ボランティアは、2004年に文部科学省「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に採択されます。さらに、2008年には文部科学省「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(学生支援GP)」にも採択されました。
家庭教師ボランティアは学生支援GPに採択されたことで「サービスラーニング活動」と改称され、2008年11月にサービスラーニングセンターが開設されました。これに伴い、外国につながりのある児童・生徒やその保護者を対象とした日本語・教科支援のあり方を改革し、それまでの家庭訪問型の支援から、学生が小・中学校、あるいは地域の公共施設に赴いて支援を行う活動へと移行しました。また、以前より行われていた児童英語教育支援活動もサービスラーニング活動に統合されました。
「学内での学び(ラーニング)」と「学外での学び(地域社会での奉仕、サービス)」を関連づけるようにカリキュラムの見直しも図られ、「日本語教育概論」「日本語教育実習」「児童英語教育概論」「児童英語教育実習」という科目が新たに設けられました。さらに2019年度には、日本語支援に関するサービスラーニングを正課の授業科目としました。ボランティア活動だったものを授業科目とすることで、学生は講義から必要な知識を得て、同時に実習で支援活動を行うことにより、知識と実践を有機的に結びつけながら学びを深めることができるようになりました。これにより、短期大学としてより強固な支援体制を整備しました。
1990年代以降、外国につながりのある学齢期の児童生徒数は全国的に増加の一途を辿り、日本語指導は日本の教育において大きな課題となりました。秦野市では、日本語支援が必要な児童・生徒に対して支援期間に上限を設けることなく小・中学校で指導を行っており、上智短大のサービスラーニング活動もその一端を担いました。上智短大は秦野市との地域連携を通して、誰一人取り残されない包摂的で公正な社会づくりに貢献できるよう努めてきました。
上智短大提供
上智短大提供
(3)聖マリア寮閉寮と学生募集停止
上智短大提供
これまでみてきたように、2000年代の上智短大は、変化する社会情勢に対応しながら、学生一人ひとりに寄り添う教育を展開してきました。しかし、そのようななかで、聖マリア寮が2020 年3 月をもって閉寮することになりました。入寮者数の減少や建物の老朽化、運営を担っていた聖マリア修道女会の後継者不足などが理由でした。
上智短大提供
聖マリア寮は、1973年の上智短大の開学と同時にキャンパスに隣接する場所に設立され、その目的は、住居だけでなく人格形成の助けとなる場を提供することにありました。入寮式、寮祭、クリスマス会、卒寮式など多彩な行事が行われ、寮生はそれらの準備や運営を通して関係を深め、生涯にわたって続く友情を育む場ともなりました。
ここで、聖マリア寮閉寮時に『上智短期大学部通信』第93号に寄せられた、シスターで名誉教授でもある羽場勝子先生のコメントを紹介します。
1973年に聖マリア寮が創立されてから、寮長、寮係として長い間寮生と生活を共にしました。『聖マリア寮』は、最初から手作りの寮でした。寮の規則も自分たちで作りました。秦野の単調な生活を彩るユニークな寮祭も手作りでした。静粛時間の暗闇の中で、生涯の友情を育んだ寮生も多かったと思います。逞しい寮生と夢を共有できたことに感謝。(Sr.羽場勝子)
上智短大提供
聖マリア寮の閉鎖は、上智短大にとって一つの時代の終わりを告げるものでした。
さらに、同時期に始まった新型コロナウイルス感染症の拡大は、上智短大の学生募集に多大な影響を与えました。18歳人口の減少、女子の共学・4年制大学志向の高まりに加え、短期大学希望者の教養教育への関心の低下、資格・免許取得によるキャリア形成を重視する傾向の定着等、いくつもの要因と感染症拡大が相まって、2021 年度以降の入試志願者数が激減し、その結果、入学者数は入学定員を大幅に下回るようになりました。
こうした状況を受け、上智学院理事会は2023 年3 月に2025 年度以降の学生募集停止を決定しました。上智短大は2026年9月に最後の卒業生を送り出し、53年半にわたる歴史に幕をおろすことになりました。