第2章
上智学院の社会貢献活動

第1節 設置校における“For Others, with Others”の活動

 イエズス会を設立母体とする大学は、日本国内で上智大学(東京都千代田区)とエリザベト音楽大学(広島県広島市)です。また、学校法人上智学院の下には、上智大学短期大学部(神奈川県秦野市・2025年度以降学生募集を停止)、上智社会福祉専門学校(2022年3月閉校)、栄光学園中学高等学校(神奈川県鎌倉市)、六甲学院中学校・高等学校(兵庫県神戸市)、広島学院中学校・高等学校(広島県広島市)、上智福岡中学高等学校(福岡県福岡市)があります。各校の共通した教育理念が“For Others, with Others”であることはいうまでもありません。
 本章は、学校法人上智学院の設置校における社会貢献活動について、国内と国外という視点から紹介します。

国内における活動

 アルペ神父が“Men For Others”の理念を言語化する以前から、各校は国内での奉仕活動を積極的に展開してきました。それは日雇い労働者の方々への炊き出しボランティア、ハンセン病患者の方々が暮らす施設への奉仕キャンプ、外国籍の子どもたちへの学習ボランティアなど多岐にわたります。

                 

 智大学が教育の精神として掲げる“For Others, With Others”(他者のために、他者とともに)に通ずる活動としてボランティア活動があります。国内外で活動を展開する課外活動団体や、個人的に活動をしている学生・教職員が多くいます。大学所在地である千代田区の方々とも協力関係があります。
 ボランティア・ビューローでは、災害復興支援ボランティアへの交通費補助、学生の災害復興支援ボランティア企画への助成、宮城県南三陸町にかかわるプログラム、手話講座、災害救援ボランティア講座などを行っています。また、東日本大震災を契機に設立した課外活動団体ソフィアボランティアネットワーク(SVN)が主催する「防災WEEK」では各種啓発イベントを毎年行っています。

                
東日本大震災でのボランティア活動資料番号:上智の100年_P83東日本大震災後のボランティア活動
「防災WEEK2023」の様子ソフィア・アーカイブズ所蔵「防災WEEK2023」の様子
                

 智大学短期大学部では、1988年に「家庭教師ボランティア」*(2008年からはサービスラーニング)を開始しました。これは、短期大学部所在地である神奈川県秦野市との連携活動で、秦野市近隣に在住する外国籍の人々に日本語を教えるほか、児童には教科支援を行うボランティア活動です。外国籍児童に1対1で日本語を教える「カレッジフレンド」、日本語・教科支援「コミュニティフレンド」、地域の小学校などで児童へ英語教育支援を行う「イングリッシュフレンド」など幅広い活動を行っています。 *秦野市に住むサポートを必要とする難民家庭を訪問し、日本語支援を行う活動

地域の公共施設を利用したコミュニティフレンド(日本語支援)活動資料番号:上智の100年_P133地域の公共施設を利用したコミュニティフレンド活動
サービスラーニングセンターでのコミュニティフレンド活動資料番号:上智の100年_P133短期大学部キャンパス内のサービスラーニングセンターでのコミュニティフレンド活動
                

 島学院中学校・高等学校では、「Be men for others, with others」の精神を実践する活動として社会奉仕活動を行っています。近年の主な活動は、東北の各被災地を回る災害ボランティア、街頭募金、児童施設の児童を招いてのクリスマス会などです。またイエズス会教育活動として、大阪市内や広島市内において炊き出しや夜回り活動などを行っています。

釜ヶ崎(大阪市西成区)における炊き出し広島学院提供
釜ヶ崎(大阪市西成区)における炊き出し2広島学院提供
釜ヶ崎(大阪市西成区)における炊き出しの様子。この活動は高校1年生の研修会として行われています。
                

 甲学院中学校・高等学校では、カトリックの人間観に基づき、生徒が自分自身のためだけに生きるのではなく、他者のために生きる人間に育ってゆくことを目指して、全校生徒が夏の社会奉仕活動などに取り組んでいます。1981年に社会奉仕委員会が結成され、大阪市内での労働者支援活動、地元の小学生に勉強を教えるボランティア活動なども生徒が中心となって行っています。

六甲学院が夏の社会奉仕活動六甲学院提供
六甲学院夏の社会奉仕活動六甲学院提供
夏の社会奉仕活動の様子。夏期休暇等に生徒たちが少なくとも1日以上、福祉施設などを訪問して奉仕活動を行っています。
                

 光学園中学高等学校には、他者への奉仕という基本理念の一つに沿う活動として「愛の運動」があります。これは宗教活動の一環として有志生徒の委員と教員数名からなる「愛の運動委員会」が中心となり奉仕活動を企画するというもので、全校生徒にも参加を呼びかけています。主な奉仕活動として挙げられるのは、聖園子供の家(神奈川県藤沢市)への訪問、学習ボランティア、元ハンセン病患者が暮らす神山復生病院(静岡県御殿場市)での奉仕キャンプなどです。

栄光学園の「愛の運動」栄光学園中学高等学校提供
栄光学園の「愛の運動」2栄光学園中学高等学校提供
「愛の運動」の最大の催し「聖園招待」の様子。「聖園子供の家」の子どもたちを栄光学園に1日招待して行うクリスマス会で、20年以上続いています。
                

 智福岡中学高等学校では、困っている人や悩みを抱えている人々に寄り添い、心をつなぐ体験を通じて、他者の心の痛みのわかる人を育てるための活動として、カトリック大名町教会(福岡県福岡市)での炊き出しボランティアや、広島学院や六甲学院と同様に大阪市内で炊き出しボランティアや夜回りなども行っています。

上智福岡が行う大名町教会(福岡県福岡市)などでの炊き出しボランティアの様子上智福岡中学高等学校提供
上智福岡が行う大名町教会(福岡県福岡市)などでの炊き出しボランティアの様子2上智福岡中学高等学校提供
釜ヶ崎(大阪市西成区)での炊き出しボランティアの様子。

国外における活動/国外に向けた活動

 上智大学による国外の社会貢献活動として知られている活動の一つは、1975年のベトナム戦争終結後のインドシナ難民の支援活動である「インドシナ難民に愛の手を」です。当時のヨゼフ・ピタウ学長を筆頭に学内外で募金活動を行うほか、1980年2月から同年10月までの8か月間に、2週間交代で本学学生、父母、教職員、他大学の学生をタイのサケオキャンプに派遣し延べ約150人が現地で勉強や生活の支援などを行いました。
 難民支援としては、上智学院が設置する中高4校においても、第1章で取り上げた東ティモールのほか、インド、フィリピン、ネパール、アフリカ難民などへの募金活動を展開しています。更に六甲学院、広島学院、上智福岡ではカンボジアでの研修を行っています。
 このように、上智学院の社会貢献活動は、日本国内のみならず国外にも広がっているのです。

 智大学で30年以上にわたり活動しているのが、上智大学アンコール遺跡国際調査団による「カンボジア人による、カンボジアのための、カンボジアの遺跡保存・修復」です。「ソフィア・ミッション」と呼ばれるこの活動は、アジア人材養成研究センター所長の石澤良昭教授(第13代学長)が中心となり、1991年からカンボジアにおける遺跡保存官を養成してきました。1996年の西参道第1期工事着工と同時に、シェムリアップ市内にアジア人材養成研究センターを開設しました。修復工事は2023年11月に完了しましたが、定期的な保守や管理およびカンボジア人遺跡保存官の養成支援は継続して行われます。
 学生による国際貢献や異文化体験として2007年からカンボジア・エクスポージャーツアー(2013年から単位化)が実施され、住居の修復や炊き出しなどの奉仕活動に加え、現地の大学生や子どもたちと共に、遺跡見学会などを行っています。

上智大学によるインドシナ難民救済の街頭募金風景(1979年)資料番号:ネガ2_5412N_0014ヨゼフ・ピタウ学長(当時)自らが新宿の街頭に立って募金を呼びかけました(1979年)。
アジア人材養成研究センター本部ソフィア・アーカイブズ所蔵上智大学がカンボジア・シェムリアップ市に開設したアジア人材養成研究センター本部
アンコール・ワットにおける修復作業の様子アジア人材養成研究センター提供アンコール・ワットにおける西参道修復工事は、2023年11月に完了しました。
六甲学院でのインドのハンセン病患者の子どもたちの養護施設(ダミアン社会福祉センター)向け募金活動 六甲学院提供六甲学院でのインド募金活動の様子

 甲学院のインド募金は1977年に始まりました。毎月集められる募金をハンセン病患者の子どもたちの施設(ダミアン社会福祉センター)に送金しています。インド訪問は1985年に始まり、生徒たちは2年に1度現地を訪れ、ダミアン社会福祉センターの生徒と交流を図るほか、マザー・テレサの「死を待つ人の家」の訪問などを通じて世界への理解を深め、奉仕の精神を養っています。

イエズス会が東ティモールに「聖イグナチオ・デ・ロヨラ学院」を設立したことは、第1章で紹介しました。甲学院と光学園の生徒が使用していた机と椅子は、聖イグナチオ・デ・ロヨラ学院に寄贈しています。また、智福岡では、生徒会や有志が中心となり募金活動を行い、現地の貧しい家庭の生徒に奨学金を送っています。

六甲学院から寄贈された机と椅子ソフィア・アーカイブズ所蔵六甲学院から寄贈された机と椅子
栄光学園から寄贈された机と椅子2ソフィア・アーカイブズ所蔵栄光学園から寄贈された机と椅子
    

島学院では、中学3年生が毎年12月の終わりに広島市内の繁華街で、東ティモール、フィリピン、ネパール、アフリカ難民等のための募金を呼び掛けています。

寒風吹きすさぶ中での募金活動の様子1広島学院提供
寒風吹きすさぶ中での募金活動の様子2広島学院提供
寒風吹きすさぶ中での募金活動の様子