2005年度上智大学シラバス

◆労働経済学 - (後)
出島敬久
○科目サブタイトル
雇用と賃金・教育訓練に関する経済分析
○講義概要
労働経済学とは,雇用や賃金の動向やその効率性について,人々の合理的な選択(経済合理性)をもとに考える学問である。たとえば,日本企業では、年功賃金から従業員の業績を反映した成果主義賃金への移行が進んでいるが、失敗する場合も多い。経済学のモデルで考えると,理由の1つは、業績変動リスクを従業員に引き受けさせるのに必要なリスク・プレミアムが不足しているからだと理解できる。賃金支払には,インセンティブとリスク・シェアリングという両立しがたい2つの機能があることが経済学のモデルで分示される。こうした関係を理解することは,よりよい賃金設計に役立つだろう。
○評価方法
前期学期末試験(定期試験期間中)(100%)
期末試験は教科書の章末問題の類題である。受講者数が少なければ,宿題やレポートを評価の対象とすることもある。
○テキスト
George J. Borjas『LaborEconomics, 3rd ed.』 McGraw-Hill, 2005
○参考書
エドワード・ラジアー,樋口美雄・清家篤(共訳)『人事と組織の経済学』日本経済新聞社,1998
○必要な外国語
英語
○他学部・他学科生の受講

○ホームページURL
http://pweb.sophia.ac.jp/~t-dejima/
○授業計画
1人的資源の分析になぜ経済学が必要か―雇用量は労働生産性と賃金の関係で決まる
2経済学の分析手法の復習―理論モデルの構築と統計学・計量経済学を用いた検証の枠組
3人はどれだけ働こうとするか―労働供給の決まり方
4世帯主の所得がどこまで減ると配偶者は働き出すか-留保賃金の概念
5景気循環と労働供給はどう関係するか―労働と余暇の異時点間代替
6家事や子供数・子育てと労働供給はどう関係するか―家計内生産関数とNew Family Economics
7企業はどれだけ人を雇うか―労働需要の決まり方
8財の需要が変わると労働需要はどう変化するか―マーシャルの派生需要の法則
9どのような雇用調整が効率的か―動学的労働需要と労働保蔵(labor hoarding)
10賃金はどう決まるか―労働市場が完全競争的な場合と供給独占の場合
11税・年金・最低賃金規制は雇用環境を改善するか―弱者保護政策のディスインセンティブ
12リスクの高い仕事ほど賃金が高いのはなぜか―補償賃金格差とヘドニック賃金関数
13人はどれだけ教育を受けようとするか―人的投資としての教育需要と教育の内部収益率
14勉強したくない学生も大学へ進学するのはなぜか―シグナリング(能力顕示)のための教育需要
15人的投資とシグナリングをどう識別するか―先天的な能力差がある場合の実証の問題点
16勤続年数とともに賃金が上がるのは経済合理的か―人的投資の成果かインセンティブか
17人的投資費用は誰が負担するのが効率的か―一般的技能と企業特殊的技能の費用負担の違い
18世代によって生涯所得はどの程度違うか―同世代の混雑現象と生涯賃金に関する世代効果
19人はどういう条件で転職するか―ジョブ・マッチングと自発的な労働移動
20男女の平均賃金に差があれば性差別といえるか―標本平均の比較に含まれる統計的バイアス
21性別や出身学校で採否を決めるのは合理的か―統計的差別の経済合理性とその限界
22人の能力が判らないとき、生産性の低い人ほど有利になる(逆選択)のをどう防ぐか
23人の働きぶりが判らないとき、手抜きが有利になる(モラル・ハザード)のをどう防ぐか
24どのような雇用契約が効率的か―エージェンシー問題と最適なインセンティブの強さ
25固定給と業績給をどう使い分けるか―インセンティブとリスク・シェアリングのトレードオフ
26特定の国や地域で高失業が持続するのはなぜか―失業の履歴現象(ヒステリシス)
27雇用保険は失業状態を改善するか―ジョブ・サーチの限界費用と限界便益
28おわりに―仮説検証の手続きとしての経済学の有用性

  

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