2005年度上智大学シラバス

◆環境社会経済システム論Ⅰ - (前)
鷲田 豊明
○講義概要
 産業連関モデルや応用一般均衡モデルなどの国民経済の全体を表現するモデルを用いて、経済システムと環境負荷の関係を分析する。また、環境政策の効果を評価する手法を解説する。それによって環境経済学で学んだ諸点を、より現実的に、より精密に理解することを目指すとともに、これらのモデルを受講生自身が構成・利用するための基礎的な理解を与える。
○評価方法
授業参画(50%)、レポート(50%)
○参考書
鷲田豊明『環境政策と一般均衡』勁草書房・2004
鷲田豊明『環境とエネルギーの経済分析』白桃書房・1992
○他学部・他学科生の受講

○授業計画
1経済循環の把握
 受講生は経済学の初歩的な知識を有していることを前提とするが、基礎的な部分を概説する。ケネーの経済表を嚆矢とする国民経済循環をモデルで把握する手法の発展は、経済学の優れた歴史となっている。産業連関表によって多部門を前提とした、生産と最終需要の関係、マクロ経済学的な認識にもつながるGDPや国民所得の概念を理解する。
2産業連関分析の基礎
 簡単な2部門モデルを用いて、固定係数技術のもとでの純生産可能条件、賃金率と利潤の相互関係などを解説する。さらに、経済成長がモデルによってどのように表現されるのか、均衡成長経路についての理論も示す。
3行列理論とモデルの一般化
一般のn部門モデルの場合における純生産条件、ホーキンス・サイモンの条件、あるいは行列の分解可能性の問題などを示す。また、そのために必要な行列とその演算、線形代数学についての基礎的な理論を解説する。
4環境負荷と産業連関分析
 産業連関表によって、部門に分けられた財やサービスごとに、直接および間接に必要となった環境負荷を定量的に把握できる。単純なモデルによって、分析手続きを解説するとともに、実際の産業連関表(32部門程度)を用いた分析を例示する。また、太陽光発電システムのエネルギー効率を測定した例、さらに、国立環境研究所などに
5結合生産モデルと線形計画法
 廃棄物の生産は結合生産として捕らえられるが、それがリサイクルされる構造をモデルに組み込むと、生産部門数が財の数と一致することを前提にしている通常の産業連関分析では対応できなくなる。規範的な分析となるが、目的関数を最適化する線形計画法に対する理解を必要とする。双対定理などの線形計画の理論とともに、シン
6廃棄物とリサイクルを含む線形経済モデル
 先に用いたに部門モデルに、天然資源投入、廃棄物生産とリサイクル部門を組み込んだモデルを用いて、リサイクル過程がどのように構成されるかを解説する。そのなかで、これまで分析されてこなかった物質の保存と散逸を理論的に表現する方法を講義する。さらに、廃プラスチックを油化する技術が組み込まれた場合
7環境政策評価手法としての応用一般均衡分析
 環境政策の効果を事前評価するうえで応用一般均衡モデルによる分析はきわめて有効である。一般に環境政策評価について部分均衡の枠組みが用いられることが多いが、実証的には一般均衡論的枠組みが不可欠である。以後の講義の基礎として、環境汚染、環境被害がどのように表現されるか、補償余剰と等価余剰の理
82財2部門の応用一般均衡モデルⅠ
 簡単な2財2部門の応用一般均衡モデルによって理解を深める。第一回目の講義においては、CES型の生産関数と、そのもとでの最適産出係数の決定理論、CES型効用関数のもとでの最適消費需要の決定など、応用一般均衡分析に不可欠のミクロ経済学的ツールについて講義する。CES型生産関数は、コブダグラス型に比べ代替の弾力
92財2部門の応用一般均衡モデルⅡ
 基準年のデータセットのもとでの、生産関数と消費関数のパラメータをどのように決定するのかを示す。また、パラメータが与えられたもとで、一般均衡を解く手順を解説する。そのなかで、ワルラス法則の意味と、その検証の重要性、均衡のゼロ次同次性の問題、さらに、環境政策評価の基準となる補償変分や等価変分、それ
10環境政策評価モデルEPAM
 実際の環境政策評価が可能な40部門分割の環境政策評価モデルEPAMについて、どのように構成されているのかを詳細に解説する。特に、環境に深い関連をもつエネルギー部門の組み込み方、さらに二酸化炭素排出量をどの段階で把握するのか、あるいは、廃棄物排出とリサイクル部門をどのように組み込むかなどについても解説する。
11不動点アルゴリズムの理論とプログラム
 応用一般均衡モデルは、一般の非線形連立方程式を解くプログラム(例えばGAMS)などによっても解くことができるが、Scarfらによって開発されてきた不動点アルゴリズムを用いることによって一般均衡そのものに対する理解も深まる。スペルナーの補題の証明も含めたScarfの理論、およびそのアルゴリズム、あるいはそれ
12二酸化炭素税とリバウンド効果のシミュレーション分析
 応用一般均衡分析の重要な応用分野が二酸化炭素税(温暖化対策税)の効果についてのシミュレーション分析である。環境経済学的にもこの分野は重要だが、モデル分析に対する参入障壁が高いために、一部の人たちの分析に限られている。EPAMを用いて、二酸化炭素税がかけられたときにどのように経済
13産業廃棄物税とリサイクルのシミュレーション分析
 産業廃棄物税は、すでにいくつかの地方自治体で導入されているものであり、日本ではじめての本格的な環境税という性格を持っている。この産業廃棄物税が、どれほどの最終処分量抑制効果、リサイクル促進効果、さらには二酸化炭素排出の抑制効果を持っているのかをシミュレーション分析する。

  

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