第14回 輝くソフィアンインタビュー 藤間 紋(本名:河合 佐和子)さん

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第14回 輝くソフィアンインタビュー 藤間 紋(本名:河合 佐和子)さん

2013.06.28

上智で国際文化に触れた経験が日本文化への愛着と理解を深めてくれました 藤間 紋(本名:河合 佐和子)さん 藤間流 日本舞踊家 1975年卒業(文学部史学科)

藤間 紋(本名:河合 佐和子)さん
藤間流 日本舞踊家
1975年卒業(文学部史学科)

藤間紋さん
国際色豊かな校風にひかれて入学
専攻は西洋史でした

 私は人間国宝の文楽人形遣い「桐竹紋十郎」が祖父であり、古典舞踊や創作舞踊の振り付けを得意とする日本舞踊家「藤間 紋寿郎」が父という環境に生まれました。幼いころからおどりの稽古を始め、日本の伝統芸能に囲まれて育ってきた私が、大学進学するにあたり上智大学を選んだのは、外国人の先生が多い国際色豊かなキャンパスに魅かれたから。文学部史学科で西洋史を専攻しました。日本の伝統文化を身近に感じて育ってきたからこそ、若い頃は西洋に対する憧れの気持ちも強かったのです。

 当時の上智大学は東西文化の比較研究に関する講義が豊富で、例えば「聖パウロと親鸞の比較研究」など、日本と西洋の宗教観や文化の違いや共通点を学び、理解を深める機会に恵まれました。神父様たちは自国の歴史や文化に精通しているのはもちろん、禅を研究している方や日本の伝統文化に造詣が深い方がいらっしゃるなど、ある意味日本人よりも日本に精通している方が多いことが印象的でしたね。

 ゼミではフランス近世史専門の磯見辰典先生のもとで、西洋における舞台や舞踊について学ばせていただきました。課外活動では上智のオーケストラに1年間だけ在籍したことも。「初心者でも大丈夫だから」とお友達に誘われてビオラを担当することになったのですが、三味線の音に慣れ親しんでいたせいもあってか、どうも音感が合わなかったのです。そのため、すぐにオーケストラは見る側にまわりました。

 こうして、あらためて大学時代を振り返ってみると、上智でさまざまな国際文化に触れたことで、日本文化への愛着や理解がより深まったとも言えるのかもしれません。

大和楽「花洛道成寺」(みやこどうじょうじ)
沖縄の捕虜収容所が
父の創作舞踊のルーツ

 大学卒業後は、おどりのお稽古と父の創作舞踊の助手をしていました。若いころから父のリサイタルに参加して経験を積んだことは、のちに舞踊家になった私にとって大きな財産になっています。戦争体験のある父の創作舞踊のルーツは、沖縄の捕虜収容所にありました。土曜の慰問会で披露するおどりのために、仕立て職人さんがカーテンなどの生地で着物を作り、髪結い職人さんが針金と太いロープをほぐして毛にしたものでカツラを作る。そして、米兵がトランペットで和風のメロディを演奏する…そんな風にしてやっていたそうです。父が生み出した創作舞踊における手作りならではの良さは、これからも残していくべきものだと思っています。

 私は二人の子どもに恵まれたこともあり、30代はおどりを中断して育児中心の毎日を過ごしていましたが、その中でハッと気づかされたこともありました。例えば、娘の学芸会などに参加すると、お歌のメロディが「おもちゃのチャ、チャ、チャ!」という、テンポが速いものが多いことに気づきます。一方で、日本古来のリズムは「さーくーらー、さーくーらー」という、ゆったりとしたものが中心。小さいころから西洋のリズムに親しんでいる子どもたちには、文楽や歌舞伎のテンポが合わず、退屈に感じてしまうのも仕方がないのかもしれません。

 西洋文化を取り入れることが悪いとは思いませんが、日本舞踊やお習字、和楽器の演奏など、日本の文化に触れる機会を作ることも大切だと感じています。私は、おどりや着付け、娘とともに三味線の教室で指導をしたり、学校などでワークショップを開き、日本の文化や伝統に興味を抱いていただくための取り組みを行ったりしています。これらの活動が少しでも多くの人にとって、日本の良さを再発見するきっかけになってくれたら嬉しいですね。

義太夫「千鳥」
左:藤間 紋氏  右:桐竹 勘十郎氏(文楽人形遣い)
一歩足を踏み入れさえすれば
日本文化への興味は無限に広がります

 日本の文化に触れる機会が減ったのは大人も同じだと思います。そして、海外に出て初めて、自分の日本文化に対する知識のなさに気付くこともあるようです。というのも私は、転勤や留学で海外に行かれた方が、現地で「着物ってどうやって着るの?」「歌舞伎ってどういうもの?」などと質問されて困ったという話をよく聞きます。私としては、入門のところだけでいいから、自国の文化について知っておいてほしいと思うのですが、着物を着たり、習い事をしたりすることに対して、敷居が高いと感じてしまう方も多いのかもしれません。でも、決してそんなことはないし、一歩足を踏み入れれば、自然と興味は広がっていくはずなのです。

 例えば、歌舞伎や文楽を見るなら、最初は話が分かりやすくて短いものを選ぶとか、運動不足解消のために、日本舞踊に挑戦してみるとか、肩肘張らず気軽に始めてみればいいのです。日本舞踊で着物を着たことがきっかけで、週末にも着て歩きたくなるとか、音楽に合わせておどるので、邦楽に興味を持ちはじめるとか、さらには舞台美術や文学を学びたくなるなど、いろんな波及効果があるかもしれません。

 ほかにも、おどりにはいろんな良い点があります。動きが緩やかなので、激しい運動は難しいという方も安心ですし、背筋がピンと伸びて姿勢がよくなります。また、洋服を着たときのスタイルには自信がない方も、着物を着ると、とても美しく見えることも…。日本舞踊を始めるのに早いも遅いもありません。興味がある方にはぜひ、教室をのぞいていただきたいと思っています。

藤間 紋(本名:河合 佐和子)さん プロフィール

昭和27年、紋寿郎の長女として生まれ、4歳より舞踊を始める。
白百合学園にて高校までを過ごし、上智大学文学部を卒業。
7歳にて藤間松寿郎師に師事。18歳で祖父桐竹紋十郎の追善会にて「瓜子姫とあまんじやく」 を三世藤間勘齋師(二世尾上松緑)と踊る。
紋寿郎振り付け作品として、「神卯」「鶴の羽」「風の童画」等をおどり 平成16年、リサイタル「紋の会」(芸術祭参加)を日本橋劇場にて開催、紋振付作品「千代女四季」(駒井義之構成・清元梅吉作曲)を発表。

おどり、着付けのお稽古の他、江戸の芸能を紹介する「江戸学」の公演活動を娘河合佐季子とともに行っている。2006年・ 2007年、上智大学コミュニティ・カレッジで「千代田学入門」特別公開講義の講師を務めた。


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