第12回 輝くソフィアンインタビュー 小川麻子さん

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第12回 輝くソフィアンインタビュー 小川麻子さん

2013.03.11

今の時代にこそ求められる 「for Others, with Others」の精神 小川 麻子さん 舞踊家、振付家、シンガー 1981年卒業(上智短期大学 英語科)

小川 麻子さん
舞踊家、振付家、シンガー 1981年卒業(上智短期大学 英語科)

あるスポーツ紙の切り抜きが
商社OLだった私の人生を変えた

 数年前、TRFのSAMさんと再会しお話しする機会がありました。彼と最初に出会ったのは1983年に行われたCIC映画主催の「全国フラッシュダンスコンテスト」。女性部門の優勝者が私で、男性部門がSAMさんだったんです。コンテスト後、二人ともアメリカに招待されて、短い期間でしたが、色々なダンスを見ることが出来ました。それから早30年。再会したときはSAMさんと懐かしい話やダンスの話をしみじみとしたものです。

 でも実は、私は最初からダンスで食べていこうと思っていたわけではありません。上智短期大学を卒業後も総合商社の事務職として働いていました。「全国フラッシュダンスコンテスト」を知ったのは、同僚が私に持って来てくれたスポーツ新聞の切抜きのおかげです。『フラッシュダンス』は、ブレイクダンスやジャズダンスが取り入れられた斬新な作品で、もちろん私も感動した映画でした。コンテストの知らせを見て、「これは何かのチャンスかも…」という直感を信じて、会社を抜け出して参加したんです。

 あのとき同僚が持っていたスポーツ紙の切り抜きを目にすることがなかったら、今どうなっていたか分かりません。コンテストに出場したことがきっかけで、アメリカへ渡り、世界中で踊る機会を頂きました。また、歌の方ではジャクソン5やスティービー・ワンダーを輩出したアポロシアターの「アマチュアナイト」のステージにも立つことができました。そのほか、CM出演やテレビドラマの振り付けなどもやらせていただきましたが、自分の力で人生を切り開いてきたというよりは、周りの人からいただいたご縁に導かれるようにして、ここまで来ることができたと思っています。

小川麻子さん
初めて世界と触れた学生時代
往復5時間の通学で想像力を養う

 これまでにした仕事全てに思い入れがありますが、なかでも特に印象に残っているのが、「愛・地球博」(愛知万博)において、トヨタグループ館のエンターテイメントショーの振付家として選ばれたこと。’98サッカー・ワールドカップ(フランス大会)の開・閉会式などの総合演出を行った、フランスの著名な演出家イブ・ペパン氏の世界をダンスで表現しました。スポンサー、演出家、スタッフや演者の間では日本語やフランス語、または英語と、言葉がバラバラだったので意志疎通がなかなか大変でしたね。そういった場面で大切なのは言葉を正確に訳すことではなく、心を通わせること。上智にはスイスやスペイン、アメリカなど様々な国からきた先生や神父さまがいましたから、学生生活の中で先生方と心を通わせ、リアルに世界を体感したことが、そのとき活かされたと思います。

 ちなみに、私は学生時代、都内から片道2時間半かけて秦野キャンパスに通っていました。朝のスクールバスに乗り遅れると、タクシーか歩きしかありません。タクシーは高いし、春には蛇が出るという噂もあるので、絶対に乗り遅れるのは嫌。ということで、朝5時半には起きて準備していました。秦野キャンパスは、スイス人の先生が故郷を思い出すとおっしゃるほど、自然豊かで静かなところ。何かを学ぶには最適な場所だったと思いますね。往復には5時間かかっていましたが、移動中は何をするでもなく頭の中を空っぽにしてすごしていました。今思えば、ダンスや歌に必要な想像力を養うために大切な時間だったのかもしれません。

『allo...vol.Ⅲ』 ―あなたの中の...あたしの中の...―からのソロ作品より。(セッションハウス)
今やっていることを「使命」だと思えば
人の批判や顔色に一喜一憂せずにすむ

 これは私に限らずですが、上智を出たみなさんは「心のよりどころ」を持っていると思います。そのよりどころは、キリスト教だったり、先生の言葉だったり、仲間だったり…人それぞれだと思いますが、先行き不透明な今の時代には、そういうものを持っている人のほうが、たくましく生きられると思うのです。

 それに加えて、自分のしていることを使命だと思える人は強いと思います。「人様のため」なんていうのは、少しおこがましい気もしますが、私は「ダンスや歌を自分の使命だと思えばいい」と人に言われたことがきっかけで、心の中にあったいろんな葛藤が消えました。自分のためだけにやっていたら、今まで続けてこられたかどうかわかりません。これが自分の使命だと信じて、やるべきことをやっていれば、人の批判や、顔色を気にしすぎずにいられるようになるものです。しかも、いかに自分が家族やそのほかのいろんな人に支えられているかも見えてきて、周囲への感謝の念が自然にわいてくるようになります。その気持ちを胸に生きれば、人とのつながりがより広がっていくと思うのです。

 格差が広がる今の時代、持たざる人に目を向ける人は多いですが、資産や地位を「持っている人」に気を配る人は少ないと思います。でも、ある意味「持っている人」の孤独の方が深い場合があると思う。地位や資産があるからこそ、素直に「助けて」が言えず、人と交わる機会を失っているのではないでしょうか。上智の「for Others, with Others」という理念のように、人と人とのつながりをシェアして、少しでも多くの孤独を消していきたい、というのが私の願いです。

小川 麻子さん プロフィール

1981年 上智短期大学 英語科卒業
1983年 CIC映画主催、“全国フラッシュダンスコンテスト”に優勝
1991-1992年 (TVCF)『コカ・コーラ』(振付:バリー・レーサー氏)に出演
1993年 ニューヨーク、アポロシアターの“アマチュア・ナイト”にて6位入賞
1991-1995年 (テレビドラマ)TBS系のドラマの振付/出演
1997-1998年 フランス政府給費研修生(現代舞踊部門)として選ばれ、国立振付センター(仏)にて、世界的著名な振付家のもとで振付を学ぶ
1999年 小川麻子舞踊研究所〔有限会社ドリーム・ワークス〕を設立
2005年「愛・地球博」(愛知万博)において、トヨタグループ館のエンターテイメントショーの振付を担当

詳しい経歴はこちら(http://dreamworks.chu.jp/teacher.html)

【今後の予定】
★2013年4月~7月、セッションハウスのダンス・プログラムにて振付クラスを行う。(7月上演予定)
★8月、スペース・ゼロにてダンス公演予定。また、フランス、パリにてCDアルバム制作中。


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