第5回 地域便り

Veritas

ブラジル便り 細川多美子さん 1985年卒業(大学・外国語学部ポルトガル語学科)

2011.11.04

 世界の脚光を浴びる日がやっと来たかの感のブラジルだ。1年の留学のつもりでやって来た国だが、出発前に学科を訪ねて行った教授の「まだブラジルはあと5年はダメだね」の言葉に、5年待てば国家のめくるめく沸騰が見られるのだろうかと、滞在をダラダラ伸ばし、結局20年待たされての今日になる。
 
 国土は広く、天然資源と労働力は豊富だし、農業も工業も底力がある。「発展途上国・第三世界」から「新興国」に昇進し、日本の新聞や雑誌には「好景気に沸くブラジルでは……」といった華々しい文字が躍るようになった。私個人は一向に恩恵を受けてはいないが、イケイケの絶好調ということなのだろうか、日本からもいろんな企業が視察にきたり、進出してきたりしている。

 

 ブラジルには世界一の日系社会が存在する。移民103年の歴史はブラジルの発展に大きく貢献したため、おそらく世界でも珍しいくらいに親日だ。「この国に、日本の次にたくさんの日本人・日系人がいることは我々の誇りだ」とサンパウロ市長が言うのを聞いたときには、熱い思いに満たされた。ブラジルが日本でばかにされるようなことがあったら、絶対かばってあげるからねと。そういうクッションがあるから、日本人にはとても住みやすい。
 

自分の国が大好きなブラジル人、
サッカーW杯応援は熱狂の渦

 

 
 だが、ぼんやりしていると突然襲われる災難がある。ブラジルコストと呼ばれる「ブラジルであるがゆえに存在する余計な支出」だ。二重三重に課される税金、労働問題への対応、治安対策のほか、「正規の値段だといつになるかわからないけど、500ドル払ってくれたら明日までにやってあげるよ」といった恐喝に近い不当な要求、「街角で誘拐されて銃撃戦になっちゃったから、あの日は行けなかった」といった言い訳で大事な会議をすっぽかす、不良品を2度も3度も返品してあげく同じものはないからと他のもっと高いものを押し付けられるなど、こういうものはブラジル社会の潤滑油なのかもしれないが、論理的でも科学的でもなく、見えない罠のように人をはめる。「常識では考えられない理不尽で不愉快な無駄な支出だけど必要経費」として肝に銘じておく必要がある。
あらゆる人種が暮らすブラジルは
多文化共生先進国

 

 評価できる点はそのクリエイティブさ(?)と大胆さで、その技さえ磨ければこわいものなしだ。そこが日本人には難しい。ずいぶん痛い目にもあって、追い風にも乗れないでいるのだが、「それでもここはいいとこなんだよね」と平気でいえちゃうのは、ブラジル修行のたまものといえるだろうか。

 

細川多美子(1985年卒業 大学・外国語学部ポルトガル語学科)

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