第10回 あの人に会いたい

Veritas

第10回 フランク・スコット・ハウエル/Frank Scott Howell先生 元上智大学短期大学部学長

2013.07.12

Frank Scott Howell先生を偲んで 故Frank Scott Howell先生(元上智大学短期大学部学長)

2012年7月18日に70歳で帰天された元短期大学部学長・理工学部物質生命理工学科教授Howell先生を偲び、
理工学部長の早下隆士先生に思い出をご寄稿いただきました。

寄稿:早下隆士 先生

松岡洸司先生

 Frank Scott Howell 先生が、2012 年7 月18 日に帰天されました。この年は、ちょうど理工学部の創設50 周年の年であり、記念誌の発行や11 月の記念式典に向けて、一緒に準備を進めている中での訃報でした。悲しくて涙が止まりませんでした。クルトゥルハイム聖堂でのお通夜では、SJ ハウスの司祭達と一緒に、安らかに永眠されているHowell 先生のお顔を拝見し、最後のお別れをしました。Howell 先生の部屋の片付けにも立ち会いましたが、机にはメモ書きが残されたままであり、病院からすぐに戻って仕事を再開されるお気持ちだったのでしょう。今にもHowell 先生のお声が聞こえてきそうな、いつものHowell 先生の部屋が残されていました。

 私が上智大学理工学部に教授として着任した当時、Howell 先生は応用無機化学講座の教授であり、猪俣芳榮先生と一緒に講座の運営にあたられていました。大学院の演習では、私が主宰する分析化学講座と応用無機化学講座で一緒に学生の指導を行っていました。その関係で、Howell 先生といつも身近に接することができたことは、私の一生の財産になったと思っています。学生実験でも、講義でも、また毎年の大学院英語資格試験や科学技術英語指導の準備でも、Howell 先生は一切手を抜くことはなく、常に全力で取り組まれ、学生のことを第一に考えられる心から尊敬できる先生でした。上智大学には、なくてはならない先生、司祭であったと思います。

 以下に、Howell 先生に上智大学名誉教授になって頂くために、猪俣先生を中心にまとめて頂いた推薦内容の一部を紹介致します。

 Howell 先生はアメリカ合衆国ワシントン・コロンビア特別区のご出身で、1965 年6月にフォーダム大学を卒業され、1972 年5 月にカトリック大学にてPh.D.(化学物理)を取得されました。その後1972 年8 月に来日し、1977 年3 月に本学神学部神学科を卒業されました。1959 年に入会したイエズス会では、1977 年6 月にボルティモアで司祭叙階を受け、1982 年2 月に最終誓願を取得し、1983 年のSJ ハウス副院長を皮切りに、神父(司祭)として非常に多くの貢献をされました。

 1973 年10 月より本学理工学部化学科非常勤講師として5 年半、化学英語の授業を担当し、1979 年4 月より理工学部専任講師として化学科無機工業化学講座に配属され12年間、さらに助教授として5年間、研究と教育に尽力されました。その後1996 年4月に教授に昇進され、2009 年3 月まで13 年間、化学科応用無機化学研究室を主宰されました。

 2008 年4 月からは特別契約教授として理工学部新体制における科学技術英語教育の中心を担い、かつ2009 年4 月からは第5 代上智短期大学長、2012 年4 月からは上智大学短期大学部学長の要職にありました。残念なことに突然の病により2012 年7月に帰天されましたが、この間、およそ40年の長きにわたり、本学における研究と教育の充実と発展のために貢献されました。

短期大学部卒業式にて卒業生と

 Howell 先生のご専門は無機物理化学(低融点溶融塩の電気的緩和)および科学英語です。上智大学着任後に執筆した著書は3 冊、査読付き研究論文は90 報あまりに及び、また、化学を専門とするネイティブスピーカーによる校閲者として、多くの化学系学会の英文誌(日本化学会:Bulletin of Chemical Society of Japan、日本分析化学会:Analytical Sciences 、高分子学会:Polymer Journal 、日本コンピュータ化学会:Journal of Computer Chemistry Japan 等)における多数の論文の英文校閲をされました。この間、Howell 先生は、学事部長補佐として国際交流に携わり、日本ディベート協会(Japan Debate Association)の副会長を務められ、上智大学と外国の大学との国際交流に多くの貢献をされました。

 本学の教育では、無機工業化学講座の学部生約20 名、応用無機化学研究室の学部生および大学院博士前期課程合わせて約50 名の学生が、Howell 先生のご指導を受けました。また、現代GP「グローバル社会における系統的科学英語教育」(2005 年度~2008年度)の中心メンバーとして、化学英語および科学技術英語の授業を多く開講し、2012年9 月に開設した理工学部英語コース(グリーンサイエンスコース、グリーンエンジニアリングコース)、2013 年9 月に開講する大学院英語コース(グリーンサイエンス・エンジニアリング領域)の礎を築かれました。また、上智大学英語研究会(Sophia ESS)の顧問や、学外においても、東北大学、お茶の水女子大学、埼玉医科大学での非常勤講師、および日本化学会講習会でも科学技術英語の講師を務められました。

 このようにHowell 先生は、短期大学部学長をはじめ、多くの全学委員や顧問、理工学部内の委員を務められ、本学の研究と教育の充実に献身的に貢献されました。Howell先生は、本学名誉教授に真にふさわしい功績を残されたと思います。

 最後に、私がHowell 先生のすばらしさを体感したエピソードを紹介致します。当時、私は上智短期大学のソフィア後援会会長を務めていた関係で、よく秦野キャンパスに出かけ、SJ 祭の手伝いなどをしておりました。そのキャンパス内をHowell学長と一緒に歩いていると、学生達が「あっ、ハウエルだ」と指さすのです。私は思わず「ハウエル先生と呼びなさい」と叱りそうになったのですが、その後、指をさしていた学生達は、楽しそうにHowell 先生を囲み、お 腹を触りながら話しかけていたのです。学生達が、学長のHowell 先生をお父さんのように慕っており、Howell 先生も、ニコニコされながら学生の輪の中におられました。

 この光景を見て、私は教員が忘れかけている大切なものを、Howell 先生が持たれているように感じました。当時、学長室には、いつも学生達が集まる雰囲気があったと聞いています。私もHowell 先生のように、学生とともに、学生のために生きる教員でありたいと心から思ったエピソードでした。

 Howell 先生との思い出は、尽きることはありません。きっとHowell 先生をご存じの皆様もそうでしょう。どうかHowell 先生には、学生と共に歩む上智学院のこれからを、天国から見守って頂きたいと思います。ここにHowell 先生の教員として、司祭として、そして人間としてのすばらしさを偲び、心よりご冥福をお祈り致します。

早下 隆士 上智大学理工学部長・研究科委員長、理工学部物質生命理工学科教授

フランク・スコット・ハウエル/Frank Scott Howell先生 プロフィール
フランク・スコット・ハウエル/Frank Scott Howell先生

元上智大学短期大学部学長。
1942年生まれ/アメリカ合衆国ワシントン D.C.
1979年より理工学部講師。1991年理工学部助教授。1996年同教授。
物理学博士。専門は無機物理化学(低融点溶融塩の電気的緩和)および科学英語。学事部長補佐、応用化学専攻主任等を歴任。
2009年より上智短期大学長(当時)。
上智大学短期大学部学長在職中の2012年7月18日逝去。


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