第7回 あの人に会いたい

Veritas

第7回 ジェラルド・バリー先生 元上智短期大学学長

2013.02.15

卒業生と語り合い、成長を知り よりよい教育のアイディアに ジェラルド・バリー先生(元上智短期大学学長)

ジェラルド・バリー先生(元上智短期大学長)

初代学長として上智短期大学の黎明期を支え
社会が求める女性の育成に力を尽くしたバリー先生。
85歳を迎えた今も教育への熱い想いを抱き続けています。

ジェラルド・バリー先生
上智短期大学初代学長に就任
女子教育に情熱を注いだ12年

 「キリスト教ヒューマニズム」「徹底した英語教育」「国際性」を教育理念に掲げ、上智短期大学(現上智大学短期大学部)が神奈川県秦野市に開学したのは、1973年のことである。上智大学外国語学部英語学科で教鞭を執っていたジェラルド・バリー先生がその初代学長に任命され、以来12年にわたって女子学生の指導に尽力された。今は85歳の高齢ながら聖イグナチオ教会の司祭として多忙な毎日を送りつつ、教会のミサや同窓会、卒業後25年を祝う「銀祝祭」などでかつての教え子に会えることを何よりも楽しみにしているという。

 「上智短大の学生はみな才能豊かな、いい子ばかりでしたよ。今でも仕事を続け、重要な地位に就いている卒業生が大勢います。会社や社会の期待に応えているのですね。つい先日も私の85歳の誕生祝いに1期生が集まってくれましてね、まだ現役で働いている方も多いと聞きました。会社の経営者や大学教授、フラメンコダンサーもいるそうですよ」

 古い卒業アルバムのページを繰りながら、優しい語り口でとつとつと話すバリー先生の瞳の奥には、あの頃の情景がありありと映し出されているようだ。  秦野キャンパスから望む美しい富士の姿、授業中の学生たちの真剣な眼差し、カフェテリアにこだまする明るく元気なおしゃべり、寮生たちと楽しんだ早朝ジョギング、そして1カ月半にもおよんだアメリカ横断バスツアー。
 「上智大学の研修旅行に短大生も参加して、バス2台に分かれて100人以上が、サンフランシスコからシカゴ、ニューヨーク、ワシントンDC、ニューオーリンズ、ラスベガスとめぐって、ロサンゼルスへ。アメリカ育ちの私はもっぱら『カーナビ』役でした(笑)」
 穏和な人柄に加えてスポーツマンで、学長時代には55歳にしてサイクリングで九州一周を果たすほどの健脚ぶり。そんなバリー先生は女子学生の人気の的だ。卒業生の話によれば、代講で突如先生が現れたときなどは黄色い歓声も沸き上がったとか。

外国語学部英語学科の謝恩会で(1997年3月25日)。
社会の中心を担う
心温かな女性を育てたい

 「短大というところは、女性の自立を促すうえでとても意義ある場所です」とバリー先生は言う。男女共学の環境においては、クラスや部活でリーダー的な役割を演じるのは往々にして男性である。女性に実力が足りないのではない。譲ってしまうのである。しかし、女性だけの環境であれば、男性の存在に捕らわれることなく自分の意見を出し、行動を起こし、リーダーシップを発揮することができる。

 「そうして2年間を過ごすことで、自信がつき、判断力が養われ、自立心が芽生えます。だから、上智短大の卒業生はそれぞれの職場や社会において、より効果的に自らの役割を果たすことができるのでしょう。4年制大学の出身者よりも2歳若いということは、それだけ早く仕事に順応できるだけでなく、2年も長く働けるということです。アメリカでは、政治やビジネスの世界で指導的役割を担っている女性の多くが短期大学の卒業生なのです」
 上智大学が男女共学に移行したのは1957年だが、高度な教育を求めて門を叩く有能な女性は後を絶たず、またそうした女性の活躍を待つ社会のニーズも高まっていたことが、上智短大建学の背景にある。上智大学をはじめとするイエズス会系教育機関の根幹にある教育理念は、短期大学においても全うできるに違いない。バリー先生と上智短期大学設立委員会のメンバーはそう判断した。その後、社会の中心を担う女性の育成に身を投じたバリー先生は2006年秋、永年にわたる教育上の貢献によって瑞宝中綬章を手にされた。

85歳の誕生日に上智短大第1期生の方々と(2012年9月30日)。
クラス会などにもよく招かれて卒業生との旧交を温めている。
人生こそ最良の学舎
叡智を求め続ける冒険を

 1998年に上智大学外国語学部教授を退任されたバリー先生は、聖イグナチオ教会の司祭に着任した。1963年に司祭に叙階されてからの35年間、バリー先生は主に教育者として任務を遂行された。退任後の司祭の仕事は、大勢の参拝者が訪れる日曜日のミサを司式するなど多くのエネルギーと時間を要求されるものだが、「神に祈ることでこの仕事を続けていく強さをもらっている」と精力的に活動している。ミサやカウンセリングのために府中刑務所を訪れる活動も、つい最近まで続けてきたという。

 「ほかにもいろいろと行事があって慌ただしいのですが、日曜日は教会のオフィスにいます。もし近くまで来ることがあれば、ぜひ会いに来てください。そして、あなたのお話を聞かせてほしい。よりよい教育と人が幸福であることのヒントを知るために、卒業生からのフィードバックが必要なのです」

 後進へのメッセージを伺うと、学長就任当初に連載していた雑誌『螢雪時代』の記事をそっと手渡してくれた。そこにはこう記されている。 『叡智の探究は大学卒業とともに終わるものではなく、最高の教室であるこの世界そのもののなかで各自が生涯にわたって継続する冒険なのです。真理の探究をあきらめないでください。』

卒業生から贈られた色紙はバリー先生の大切な宝物。
ジェラルド・バリー/Gerard Barry先生 プロフィール
ジェラルド・バリー先生

上智大学名誉教授。
聖イグナチオ教会司祭。
1949年Georgetown University School of Foreign Service 卒業。
50年イエズス会に入会。
Fordham University, New Yorkで哲学、英文学を修めて56年に来日。
64年上智大学大学院神学研究科修士課程修了。
翌年、外国語学部講師となり、72年同教授。
73年上智短期大学開学と同時に初代学長に就任。
英語科教授として英語音声学、英語表現などの教鞭も執る。
85年より上智大学に戻り、98年退任。
同年に名誉教授となる。
2006年瑞宝中綬章受章。



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