第3回 あの人に会いたい 

第3回 ウィリアム・カリー先生 元上智大学学長

2011.04.20

他者のため、世界のため 上智の精神を貫きたい ウィリアム・カリー先生(元上智大学学長)

ウィリアム・カリー先生(元上智大学学長)

寮生活、聖歌隊、学長時代の仕事……
33年におよぶ上智での思い出は尽きることがありません。
それを胸に、カリー先生は今も世界のために働いています。

カリー先生
上智の多様性が生んだ
一人ひとりを大切にする教育

 かつての上智大学にはキャンパス内に学生寮があり、出身地や国籍、学部を異にする200人余りの学生が共同生活を送っていた。その舎監を長く務め、自身も23年にわたって寝食を共にされてきたのが、第12代学長のウィリアム・カリー先生である。

 「毎晩のように学生たちと輪になって、遅くまで語り合いました。将来のこと、恋愛のこと、悩み、希望、喜び……話はつきません。
 寮には文系の学生もいれば理系の学生もいて、外国人もいます。部活で打ち込んでいることもそれぞれ違う。そのまったく異質なパーソナリティがぶつかりあう中で、彼らはしだいに『自分とは何か』を学んでいくのです。
 最近の若い人のように、自分と趣向の合う人とばかりケータイでつながっていたら、その大事なことを見失ってしまわないかと心配です」

 そこは教室とは別の学び舎であり、社会に出るための準備の場であり、またとないエンタテインメントの舞台でもあった。学生たちが企画する寮祭やスポーツ大会、クリスマスパーティの数々が、今もカリー先生の胸に深く刻まれている。
 「80年代の初めでしたか、寮の25周年の記念に寮歌を募集することになりましてね、聖歌隊員でもある寮生が素晴らしい曲を作って、他の寮生3人と一緒に披露してくれたんです。『四谷雨情』??さくら花散る道?四谷紀尾井町わがふるさと?。懐かしいですね。ここでは私もいろんなことを勉強させてもらいました。一人ひとりの心を大切にする教育のあり方とかね」

ローマ法王にも披露した
上智聖歌隊の華麗なる歌声

 上智聖歌隊の顧問として指揮者を務めたことも、忘れられない思い出だ。教員となって3年目に役について以来25年、学長となるまでタクトを振り、男女混声75人のメンバーとともに毎週2回の練習を続けてきた。

 「週に一度のミサはもちろん、入学式や卒業式、教職員や卒業生の結婚式にも呼ばれていきました。クリスマスに聖イグナチオ教会で披露するコンサートは壮麗です。
 そうそう、ローマ法王の御前で歌ったこともあるのですよ。1981年2月25日、来日された法王がどうしても上智大学を見たいとおっしゃられて、来日中のスケジュール管理を担当していた当時のヨゼフ・ピタウ学長が無理をして組み込んだ急な訪問でした。朝6時過ぎにお越しになるというので、7号館14階の特別会議室に500人もの教職員や学生が集まってお出迎えをして。それをご覧になった法王がひと言、"It is an injustice."と。何か失礼があったのか…と心配したところ、早朝に駆けつけた面々を気遣ってのお言葉だったので、ホッとして皆笑いました。
  私たち聖歌隊はもちろん、緊張のあまり前の晩はまったく眠れませんでした」

 故ヨハネ・パウロ二世がローマ教皇として初めて日本を訪れたのは、1981年2月23日?26日。ピタウ先生が随行して広島・長崎へと向かう直前に本学に立ち寄られ、「上智大学のアジアにおける機能に期待する」と述べられたのだった。

for Others, with Others
世界的な人の輪を築きたい

 1999年、学長に就任。法科大学院、総合人間科学部・同研究科、地球環境学研究科の開設など、次々と新しい取り組みへの準備を進めた時期だった。2号館を新設して、そこに学生センター、学事センター、キャリアセンター、国際交流センター、総務局などのサービス部門を集約したのもその1つ。
 「学生にとっても、教職員にとっても、こうした部門は1カ所にまとまっていたほうが便利でしょう。もっとも、2号館が完成したのは私が学長を退く間際の2005年2月。真新しい学長室には1カ月しかいられなかったんですけどね(笑)」

 退任してからの4年間はフィリピンで過ごしたという。アジア十数カ国から神父のたまごが集うアテネオ・デ・マニラ大学の神学院。そこで出会った東チモールやミャンマーなどこれまで接点のなかった国や地域の人々との交流が、世界のイエズス会系学校の出身者を結びつける今の活動へとつながっている。
 「どこの学校にも同窓会はありますが、これを1つにつないで、世界約300万人の卒業生によるネットワークをつくりたい。その力で、教育や医療や貧しい人々への支援を強めるのです。『他者のために、他者とともに』??みなさんもどうか、この上智の精神を忘れずにいてください」

カリー先生が四半世紀にわたって指導した「上智聖歌隊」。2011年には結成50周年を迎える。
ウィリアム・カリー/William Currie先生 プロフィール
ウィリアム・カリー先生

上智大学名誉教授。
1960年に来日し、72年から上智大学文学部英文学科講師。
85年より外国語学部教授。学生寮舎監、市谷キャンパス長、比較文化学部長などを歴任し、99年から2005年に退任するまで上智大学第12代学長および上智学院理事を務める。


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