第2回 あの人に会いたい

第2回 羽場勝子先生 元上智短期大学 英語科長

2011.04.20

扇のように拡がる未来へ 力いっぱい羽ばたいて 羽場勝子先生(元上智短期大学教授)

羽場勝子先生(元上智短期大学英語科長)

上智短大の建学以来、30年余りの教員生活。
そこで目にした学生の力、教育の力、そして上智の心。
今なお女性の未来にエールを送り続ける羽場先生にお話を伺いました。

羽場勝子先生
社会を動かす女性を育てたい
上智短大で結実した「夢」

 11月はベトナム、12月にはイタリア、そして年明け早々にもフィリピンへ。上智短期大学の教壇を降りて2年、羽場勝子先生の毎日は今も変わらずに充実している。聖マリア修道女会の代表役員として、世界各地を訪ね歩いて若者たちとふれあい、奉仕活動を通じて「国際連帯」の絆を深めている。

 「世界中の若い人たちが手と手をつないで活動の輪を広げようと、文化の違いを超えて動いている。そんな印象をとても強く受けますね。日本の大学生は内向き志向というのかしら、海外に出ても旅行で終わってしまうことが多くなったのは残念です」
 外の世界に向かってどこまでも自分の可能性を広げること。それは羽場先生が長らく学生たちに求めてきたことであり、また子女教育で400年にわたる歴史を持つ聖マリア修道女会が女性たちに訴えてきた理想でもある。

 この修道女会の協力を得て上智短大が設立されたのは、1973年のこと。当時、羽場先生は東大の博士課程で「イエズス会学校の研究」を進めていた。そのころ、先生が属する聖マリア修道女会で短大をつくる話が持ち上がり、ヨゼフ・ピタウ先生(元上智学院理事長)との出会いから上智学院に秦野キャンパスの新設計画があることを知り、両者の思いが一致した。
 「聖イグナチオの精神にもとづいて、社会の担い手となる女性を育てることが私の願いでした。その夢が現実になったのですから幸せです」
 イエズス会系の学校としては、上智短大は世界でも稀有な女子校である。

羽場先生が英語科長時代、文科省「特色GP」に採択された「家庭教師ボランティア活動」の報告書
羽場先生が英語科長時代、
文科省「特色GP」に採択された
「家庭教師ボランティア活動」の報告書
学生たちが教えてくれた
人と人、心と心の絆

 「あのころの楽しい思い出といえば、寮で過ごした学生たちとの生活ですね。100人ほどの寮生が8人で1組になって、それこそ姉妹のように気のおけない間柄でした」
 女性の大学進学率がまだ3割ほどだった時代、いわば新天地を求めて入学してくる女子学生の意識は一様に高かった。短大1期生が寮に入って2カ月目にはもう、自主的な寮生委員会(自治会)が出来上がっていた。
 「どんな寮にしたいか、各自がそれぞれ紙に書いたものを壁に貼りだして、みんなで議論をしながら1つずつ実現していきました。彼女たちの多くがその後、企業で働いたり、大学教員や国連職員になったりして、今も第一線で活躍していると聞いています」

 あるとき、心の問題で大学に来られなくなった学生を寮に迎え入れたこともある。温かな仲間に囲まれて、ほどなく持ち前の活力を取り戻したその学生は、大学への編入、ロンドン留学、企業への就職、大使館勤務と、自分の世界を広げていった。
 「その大使館でパーティーがありますとね、昔の寮仲間がお手伝いに行くんだそうですよ。人の絆がどれほど大切か、私自身もあのころに学生たちから教えられた思いです」

懐かしい卒業生の面々と久しぶりの再会。
懐かしい卒業生の面々と久しぶりの再会。
SOPHIAの誇りを胸に
大きく道を拓いてほしい

 他者を思いやるそうした気風は、上智短大に綿々と受け継がれてきたようだ。秦野市やその周辺で暮らす外国人を対象に、学生たちが自主的に参加して日本語を教える「家庭教師ボランティア活動」にもそれが表れている。
 「もう20年以上も続いていますね。初めは10人ほどの学生のアイデアで始まったささやかな活動でしたが、次第に人数がふくらんで、200人近くが参加するようになりました」

 これには羽場先生にも深い思い出がある。奉仕の精神をもって地域のために働きながら、外国人とのふれあいを通じて学生たちも成長できるこの活動が評価され、文部科学省の平成16年度「特色ある大学教育支援プログラム(GP)」に選ばれたとき、英語科長としてその申請準備をとりまとめたのが羽場先生だった。  「上智短大では初めての経験で不安も大きいなか、申請日まであと10日しかないという土壇場で、教職員が一致団結して準備を進めました。何事もやればできるんですね」

 それにも増して羽場先生が強く心を打たれたのは、この活動が上智短大の教育方針である「キリスト教ヒューマニズム」「国際性」「言語教育」の3つの要素を図らずも満たしていることに、申請の過程で教員自身が気づいたことだった。だからこそ、「家庭教師ボランティア」から「サービスラーニング」へと発展し、その後も連続してGPに採択されることになったのだ。
 「上智短大の学生はみな優秀です。短大出身だからと自ら進路を狭めることなく、自分の力で道を切り拓いてほしい。それが私から卒業生への心からのエールです」

現在も頻繁に海外を訪れ、各地で交流の輪を広げている。
羽場勝子先生 プロフィール
羽場勝子先生

聖マリア修道女会代表役員。上智短期大学名誉教授。
1973年上智短期大学建学と同時に非常勤講師に。
人間学、女性学、教育学、宗教学などを担当し、95年から教授、2003年から06年まで英語科長。
09年退任。この間、上智大学文学部でも教鞭を執る。


前の記事