第1回　あの人に会いたい

　1976年から2002年まで、上智社会福祉専門学校で教鞭を執り、第６代学校長を務められた、ハイメ・カスタニエダ先生。現在は横浜司教区カトリック鍛冶ケ谷教会で、主任司祭としての任に当たられている。横浜の本郷台駅から歩いて数分、閑静な住宅街にある小さな教会を訪ねると、先生ご自身がにこやかに出迎えてくださった。

　「この教会に来て、８年ほどになるでしょうか。教職を退いた直後は、昔から関心があった人権問題の研究でもやろうかと、考えたこともあるのですよ。でも４カ月ほどマドリードの教会で仕事をするうちに、こういう生き方もいいと思うようになりました」

　600人の信徒を抱える教会の司祭としての毎日は、想像以上に多忙だ。朝５時に起床し、教会に隣接する幼稚園のシスターたちのミサを執り行うことから、先生の一日は始まる。
　「土曜と日曜のミサ、説教の準備、お葬式に結婚式、教会出版物のための執筆と、いつも何かしらやることがあります。でも楽しいですよ、毎日いろんな人たちと会えますからね。最近、思いがけず社会福祉専門学校の卒業生と出会ったのは、うれしい驚きでした。家族と一緒に、うちの教会に通ってくれています」

　上智大学や上智短期大学でも、長く教壇に立ってきた先生だが、社会福祉専門学校の学生には、強い印象があったという。 　「社会人学生が多く、その向学心の高さと努力には頭が下がりました。授業が終わるのは夜９時頃でしたが、もっと学びたいと、キリスト教の勉強会にもずいぶん参加してくれました。２号館にあった私の研究室に集まって、互いにいろんな話をしたものです。授業で提出されるレポートも、豊かな人生経験を感じさせるものが多く、私はしばしば感銘を受けました」

　その社会福祉専門学校の学生との思い出のひとつが、夏休みに行ったキャンプだ。
　「箱根方面へ出かけ、３泊ほどしたでしょうか。昼間はハイキング、夜はキャンプファイヤーを囲んで星を見るのです。スペインでは毎年８月10日の聖ロレンスの日に、星空を眺める風習があります。この時期に現れるペルセウス座流星群が、聖人の殉教を悼む涙のようだというので、スペインではこれを『聖ロレンスの涙』と呼ぶのですよ。その聖ロレンスの涙を日本で学生たちと見たのは、なかなかに感動的でした」

　また春休みには、ガラルダ先生らとともに学生を引率し、フィリピンへのスタディツアーを行った。
　「社会福祉を学ぶ学生に、極限の貧しさの中で懸命に生きる人たちの現実を知ってもらいたかったのです。スラムに暮らすフィリピン人家庭でホームステイも体験し、みなさんそれぞれ、大きな発見があったようでした」
　学生たちに多くの学びを与えたスタディツアーは、その後何年か続き、現在は上智大学と上智社会福祉専門学校の課外活動団体「ハロハロの会」の活動に受け継がれている。

　40年以上にわたった教員生活の中で、常に学生に伝えたかったのは、「自分の頭で考える」ということ。卒業生には、社会福祉専門学校で学んだことを日々の仕事や暮らしに活かし、末永く社会と人に尽くしてほしいと語ってくださった。
　イエズス会のメンバーとして1958年に来日して以来、人生の大半を日本で過ごした先生は、2011年の６月に80歳を迎えられる。「まだバイクに乗りますよ。でもさすがに物忘れは多くなりました」と語る笑顔が穏やかだ。
　「教会の仕事を離れる日も、そう遠い先のことではないでしょう。外国から来た仲間の多くは、役目を終えるとそれぞれ故郷へと帰っていきますが、私は生涯残るつもりです。日本語で何と言いますか、そう、日本の土になりたいと、そんなふうに思っています」