第4回 教員エッセイ

Veritas

神学部神学科 宮本 久雄先生

2012.04.01

渡辺文夫先生から宮本久雄先生へのメッセージ

 ヘブライ的・日本的「相生思想」の構築に取り組んでいる宮本久雄先生は、日本を世界の歴史の中心部へ結びつけようとされているように私には思えます。日本人の閉塞的状況を世界に開く原点のお仕事をされておられる、ということです。私の宮本思想解釈は、いかがでしょうか、宮本先生?

相生の智恵に向けて

神学部神学科 宮本 久雄

 渡辺先生からのメッセージを受けて、いささか私の現在考え実践していることを紹介させていただきます。ここ3、4年の間、上智大学で「共生学」(Sapientia Convivendi)の共同研究会を立ち上げました。そしてこれまで6号に至る雑誌『共生学』を皆さんと共に発刊してきました。その「創刊号」の冒頭で次のように記しました。「共生学は、この危機的時代に共生の智恵を求めて、人類の智的遺産と現代の知との協働に根を張り、本邦を始め東アジアに広がる仏教、儒教、アニミズムからさらにヒンドゥー、イスラムの智恵の伝承にふれ、上智大学の根幹に流れるキリスト教の伝統(カトリック、ギリシア正教、プロテスタントなど)に沈潜しつつ、宗教間対話とその拠点形成を通じて(原子力)科学技術に基づく巨大な現代文明の中に、静謐な共生空間の創成を待望する」と。

 渡辺先生のメッセージに現われる「相生」とは、このような共生の意味を強く実現した言葉です。つまり、「相生かし相生かされ相生く」を意味します。この相生を自覚し始めたのは、肉親がBC級戦犯として裁かれたのが機縁となり、アジア戦争を意識したことや、また昔聖書研究のため争乱のパレスチナで過した時のショックなどが機縁となり、その後アウシュヴィッツの根源悪について思索しつつ「相生」ということを深めてきたつもりです。しかも今回の東日本大震災の襲来、原子力文明の破綻の露呈した日(3.11)以後、単なる復興ではなく、人類的な相生がますます深刻に問われていることに深く思いをいたしました。

 この3.11直後から、文明的根源悪や人間の罪業をふまえて、韓国の西江大学でのシュンポジウム、上智大学での国際ホワイトヘッド・シンポジウム、仙台や東京の諸大学や教会、また日本基督教団の3.11後の「創造」をめぐる大合宿などに参加させていただき、大学人あるいは日本の一思索家として分ち合いをし、大いに激励と感動を受け、他方で思索の深化をいただきました。

 国際交流も多々あるのですが、最近はユネスコの支援を受けて、次のような雑誌に論文を発表しました。
 "The Birth of Ehiyehlogy: Beyond Buddhist Thought and Ontotheology" in Diogenes Japanese Philosophy Today, 227, Vol 57, IULM University, 2011.
 これからも「共生学」を中心に、上智大学を横断する仕方で、また学外・海外から様々な多彩な生と思索を生きておられる先生や実践者と交流し、3.11の出来事の重さを自覚し、担っていきたいと願っております。

<専門領域>
哲学、聖書神学、教父と霊性

<主な著作>
最近著作という形で「相生」について世に問うたメッセージを挙げておきます。
宮本久雄 『他者の甦り-アウシュヴィッツからのエクソダス』 創文社、2008年
宮本久雄 『旅人の脱在論-自・他相生の思想と物語りの展開』 創文社、2010年
宮本久雄 『ヘブライ的脱在論-アウシュヴィッツから他者との共生へ』 東京大学出版会、2011年 など


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