2005年度上智大学シラバス

◆産業論特講Ⅱ - (後)
柳本 信一郎
○科目サブタイトル
航空産業論
○講義概要
ライト兄弟が人類初の飛行に成功したのは1903年。以後、航空機は第1次第2次世界大戦を経て大きく発展し、102年後の今日、大型ジェット旅客機が縦横無尽に世界を飛んでいる。航空機が国を越え、昼夜の区別なく安全に飛行できるのはなぜか。その基本となるワルシャワ条約やシカゴ条約、ICAO、IATAなど航空産業を支える国際的な仕組みを紹介し、一見華やかに見える航空会社が、長びく不況やWTCテロ、イラク戦争、SARS、石油高騰、競争激化など、世界の政治や経済にどれほど影響を受けるか、厳しい経営を迫られる航空産業の現状を13回にわたって講義する。
○評価方法
リアクションペーパー(10%)、レポート(30%)、後期学期末試験(定期試験期間中)(60%)
○テキスト
日本航空広報部『航空実用辞典』 朝日ソノラマ。1997年。
Paul Stephen Dempsey & Andrew R. Goetz『規制緩和の神話 Airline Deregulation and Laissez-faire Mythology.』 日本評論社。1996年。
猪瀬直樹『空港の内幕』 PHP研究所。2002年。
○参考書
財団法人 日本航空協会『航空統計要覧』財団法人 日本航空協会 2004年12月20日
諏訪哲忠『航空業界を裸にする。』KKベストブック。平成6年。
柳田邦男『航空事故 その証拠に語らせる』中公新書
○必要な外国語
英語
○他学部・他学科生の受講

○授業計画
1航空産業論概観
本講義では航空機がどのようなルールに基づいて世界各国を飛ぶことができるのか、航空産業が成り立つ国際条約やシステム、歴史など、13回にわたる講義内容を概観する。
2航空産業発展の歴史
1903年にライト兄弟が人類初の飛行に成功してから約100年。以後航空機は二つの世界大戦を契機に飛躍的に発達していった。この間世界一の名門航空会社パンナムが倒産するなど航空会社は栄枯盛衰を重ねてきた。ここでは世界や日本の航空産業の歴史を概観する。
3ICAOとIATA
航空機が国籍を越えて、昼夜支障なく飛行できる国家間のシステムが国連の専門機関であるICAOであり、IATAは航空会社がビジネスとして成り立つために必要な世界統一システムを協議するために設立された民間任意団体である。IATAは世界の主要民間航空会社約200社が加盟し、航空会社の円滑な経営を側面から支えている。
4日本と世界の空港。民営化の世界的潮流と日本の空港整備特別会計。
世界の空港の主流はハブ・拠点空港である。世界の先進国やアジアの各国のハブ・拠点空港にかける意欲と規模は凄まじい。日本に空港が105もありながらハブ空港が一つもないのは何故か。空港整備特別会計との関係を探る。
5世界の規制緩和、日本、アメリカ、欧州。
オープンスカイ政策など、欧米各国は航空の規制緩和あるいは撤廃を進めている。日本も、Air Do, Skymark, Skynetなど新規参入を認めてきたが、オープンスカイ政策は採っていない。世界と日本の航空規制緩和政策の相違を考える。
6航空事故
航空産業の歴史は事故の歴史でもある。日航機が御巣鷹山に墜落したのは1985年8月。先人は事故防止のため、多くの安全装置を開発してきたが、事故はなくならない。ICAOの統計によれば、事故はあるパーセンテージ以下には下がらない。御巣鷹山で世話役を経験した講師が事故の歴史と事例を紹介する。
7航空運賃と市場価格
IATAの航空運賃決定の仕組みと公示運賃。公示運賃と市場価格の差があるのは何故か。
8運航乗務員と地上職
卒業生で日航の現役パイロットによる経験談及び地上職による企業紹介。
9客室運航乗務員
卒業生で日航客室乗務員OBによる業務紹介と経験談。
10航空会社の労使関係
一般的に日本の労働組合は企業内組合である。欧米の組合は職能別の横断組合が多い。日本の航空会社は乗員組合とか地上職組合、客室乗務員組合など、欧米型の組織であり、独特の労使関係が存在する。全日航労組の中央執行委員だった講師が、日本の航空会社の労使関係を論ずる。
11日本人の海外旅行概観と旅行代理店、JATAの役割。
1700~1800万人の日本人が毎年海外旅行をしている。1964年に海外渡航が自由化されて以来、旅行者数が増加してきた経緯と要因を分析。この間、旅行客増加に果たしてきた旅行代理店の役割と貢献度は大きい。航空産業の発展に旅行代理店の役割や上部組織のJATAの機能を紹介する。
12IATA BSPとCASS
旅客から旅行代理店、旅行代理店から航空会社へと流れる膨大な航空運賃はどのように収受され、どのように精算されているのであろうか。航空代理店と航空会社間の決済、航空会社同士の料金決済システムであるBSPと航空空貨物の精算システムCASSを紹介。
13航空産業論総括
航空会社の競争相手は航空会社だけではない。新幹線やフランスのTGVなど高速鉄道とも激しい競争を展開している。国民経済的観点から、航空会社と高速鉄道の棲み分けを探り、13回にわたる本講義、巨大な装置産業であり資本集約型の典型である航空産業の講義を締めくくる。
14特別講義/企業見学
手配可能な土曜日に、日航羽田整備工場見学会を実施。

  

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