第8回 教員エッセイ

Others Veritas

総合人間科学部看護学科 武井 弥生先生

2013.09.12

加藤剛先生から武井弥生先生へのメッセージ
 

 次は、総合人間科学部看護学科の武井弥生先生にバトンをお渡しします。統計学が貢献できる分野の一つが看護です。上智大学の看護学科にも、「保健統計学」という講義があります。武井先生のご専門は統計とはあまり関係がないかもしれませんが、上智大学に2011年に新たに設置された看護学科の先生にも、このリレーエッセイにぜひ名前を連ねていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

 

「学生に伝えたい自然家族計画」

 

総合人間科学部看護学科 武井 弥生

  

 
 大学教員歴3年の私は、現在、新たな研究テーマを模索中です。この度、教職組合の同志、情報理工学科の加藤先生のご推薦を受けましたので、現在の活動についてご紹介いたします。

聖母キャンパス前にて

聖母大学のマリア像の前で同僚のシスター東野
(聖母大学母性助産領域特任教授)と。

 2011年4月に新設された総合人間科学部看護学科に着任。講義の傍ら、産婦人科医時代から教えている、バチカンが唯一認める「自然家族計画法」(Creighton Model Fertility Care System)を目白聖母キャンパスで数人の希望者に課外で教え始めました。
 2009年10月、ネブラスカ州オマハのクレイトン大学連携「教皇パウロ六世研究所」で、教皇庁生命アカデミー会員のヒルガー教授の下、2回のプログラムを受けました。現在までに、臨床医時代から数えて60組以上の女性及びカップルに自然家族計画法を伝えています。
 自然家族計画法とは、女性の体の自然なサイクルを損なうことなく生かし、観察を続けることにより、女性としての現在の健康状態を把握し、妊娠到達、避妊、あるいは生活改善を行うというものです。将来赤ちゃんを授かれるようにというのが一番の願いです。女性の自然な生理を傷害するような器具や薬は使いません。
 当初、キリスト教の信仰を持たない若者にこの方法が受け入られるか心配でしたが、杞憂で、看護学科生の口コミにより同級生、既婚者の方々に伝わっています。
 観察を続けると、様々なストレスが妊娠する力を阻害すること、不順と思っていた周期にも排卵は存在しているなど、自分の体の中で起きていることが解ってきます。一対一で指導を行うので、一度に教えられる人数は限られますが、自分の体を大切にする態度が育まれます。

 自然家族計画法と出会うきっかけとなったのは、出生診断の告知でした。妊娠初期に行う胎児エコーで染色体異常を疑う所見を見つけた時、医師はそれを母親に伝えねばなりません。殆どの親は染色体に異常のある子の出産を望まず、中絶を希望します。その対応についてカトリックの医師と話したく、2008年にアジアカトリック医師会総会に出席するため香港に出かけました。そこで出会った台湾のシスターから自然家族計画法を学ぶことを強く勧められました。その当時は、よく理由が解らないままそれに従い、今があります。
 避妊希望で自然家族計画法を行っている方に毎回聞く質問があります。
 「今もし妊娠したら、受け入れますか?」「---。」
 「もし染色体異常が出生前に解っても受け入れる?」「---。」
最初は渋い顔をしていても、多くは回を重ねるごとに、「たぶん受け入れる」、そして「きっと受け入れる」と肯定度がアップしてきます。心の準備、知識の獲得ができるからです。

 2枚目の写真は、北ウガンダのグル地区の村で患者さん家族とともに撮影したものです。ウガンダはかつて、エイズの発症率をABC運動(Abstinence, Be faithful and Condom use)で抑制することに成功したのですが、今新たな奇病「うなずき病」で苦しんでいます。今年、京都大学を中心とした文化人類学者たちのサポートネットワーク(Alliance for communities with Nodding Syndrome)がたちあがり、参加させて頂きました。同病は原因不明で、5~15才の子供達が患者です。現在までに7,000人が罹患し500人が死亡したとされています。心身ともに衰弱していく患者とその家族を、彼らの地域活動の強化を通してサポートしようと、今年8月にウガンダを訪れました。

 以上のような活動を通して、今後、人々のためになる研究に邁進できれば、と思っています。
 

専門領域
熱帯感染症、自然家族計画、産婦人科

 

北ウガンダのグル地区にて(2013年8月)

北ウガンダ、グル地区にて「うなずき症候群」患者家族で立ち上げたCBO(Community Based Organization)の
メンバーたちと。内紛で避難民となって苦労し、戦争が終わり故郷に戻ったら、子供たちが病気にかかった
村の人たちに、少しでも喜んでもらえるよう日本からお土産のタオルを持参した。

編集部注: うなずき病(nodding disease)、または うなずき症候群(nodding syndrome)
アフリカ東部で近年発見された奇病。致死的であり、心身に障害を起こす。5~15歳の児童しか発症しない。現在のところ発症が見られるのはスーダン南部とタンザニア、ウガンダの狭い地域に限られる。発症した児童は成長が止まり、脳の発育も停止し、知的障害に陥る。また、患者が何かを食べ始めるか、寒さを感じると病的に頷き始める。多数の児童がこの病が元で死亡している。現時点で病原は特定されておらず、詳細も分かっていない。

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