Sophia Magazine Special Issue
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に紛争当事者に理解してもらうかが、極めて重要だと話しました。 北朝鮮の核危機についての質問では、北朝鮮問題は国連安全保障理事会が一致団結していることが決定的に重要であると指摘しました。同時にグテーレス氏は、外交的な努力によって平和的に解決することの重要性も強調しました。また、元兵士の精神的なトラウマへのサポートについて問われると、紛争の被害者や元兵士への精神的なケアやサポートの必要性と、実際に行われている支援の間にギャップがあるという認識を示しました。そして、元兵士をはじめ支援を必要としている人たちへのサポートができる体制と基金を整備する必要性を訴えました。 紛争予防の具体的な方法については、それを実現するために必要なことは多岐にわたると述べました。具体的には、経済的発展や若者の雇用を増やすこと、そして若者が過激化することを防ぐ教育も重要と述べました。そして「調停によって紛争を予防することも可能だ」として、紛争予防や調停の能力を向上させることは、国連事務総長としてもっとも重要な課題の一つであると決意を述べました。 最後にグテーレス氏は、日本の学生達にメッセージを送りました。日本人である以上、日本人としての政治的、社会的な活動を十分に行うことが重要だと述べ、その上で、「日本だけを見るのではなく、世界を見てください」と語りかけました。「世界がこれだけ1つにつながっているとき、世界で起きていることは、否応なく日本での生活にも影響するのです」と、グテーレス氏は強調しました。そして「日本人として精いっぱい役割を果たしてください。同時に、世界に生きるコスモポリタンとして生きてください。(be “full citizens of Japan”, but also “full cosmopolitans of the world”)」と熱く語りました。を伝え、「人間の安全保障をテーマにした講演が、将来の地球的課題にどう向き合えばよいか、私たちに指針を示してくれるはずだ」と挨拶しました。 続いて、国際協力人材育成センター副所長の東大作教授が登壇し、ポルトガル共和国の首相や国連難民高等弁務官を務めてきたグテーレス氏の略歴や、2016年の事務総長選出の際に、同氏が加盟国から圧倒的多数の支持を集めたことを紹介しました。 特別講演の中で、グテーレス氏は、今日のグローバル課題・脅威として、 (1)北朝鮮核危機を含む核の脅威、(2)軍事紛争や内戦の複雑化、(3)地球温暖化、(4)グローバル化と格差の拡大、(5)移民や難民による国家間の緊張の高まりの5点を挙げました。これらの複雑に入り組んだ脅威や課題に、国際社会としてまとまって対応するためには、「人間の安全保障」の概念が決定的に重要であると述べました。その理由として、「人間の安全保障」は人間の「尊厳」に根差した概念であり、国連加盟国が一致して支持しているコンセプトであることを指摘。「『人間の安全保障』という概念への国際社会の支持は、疑問の余地がない」と明言しました。 その上で、紛争が起きてから対処するよりも、紛争が起きる前に「予防」することが決定的に重要だと強調しました。そして「人間の安全保障」というコンセプトは、さまざまな国家やアクターを「結びつけるコンセプト(unifying concept)」であり、紛争予防、持続的開発、持続的平和作りなどを相互に連携して促進していく上で、極めて有効なコンセプトであると指摘。「人間の安全保障」というコンセプトを軸に、グローバルな課題や脅威に対応する、経済的・社会的・政治的状況を作り出していくための戦略や行動計画を、今こそ加盟国や国際社会は打ち出すべきであると訴えました。 また、グテーレス氏は「人間の安全保障」という概念を発展させるために日本が果たしてきた役割について述べました。「人間の安全保障」というコンセプト自体が日本で作られたこと、そして日本が主導して国連の中に「人間の安全保障」を実現するための基金やメカニズムを作り、かつこのコンセプトを基に世界中で事業を行い成功させていることを称賛しました。そして国連と国際社会は、この人々を結びつけるコンセプトである「人間の安全保障」を、グローバルな課題や脅威に対処するためにさらに活かしていくべきだと主張しました。 最後に、大学や市民社会が「人間の安全保障」についての知的な議論を続け発展させることで、世界中の多くの政府が、この概念を使って紛争予防、持続的開発、持続的平和作りというグローバルな課題に取り組むことを促すことができるはずだと、会場を埋め尽くした研究者や学生達に向けてエールを送りました。 講演の後、グテーレス氏は、本学を含む国連アカデミックインパクトに加盟する13の大学から参加した約30人の学生と懇談を行いました。東教授の司会進行のもと30分間にわたり、同氏と学生の間で熱心なやり取りが繰り広げられました。 国連が紛争当事者の橋渡しや調停をする役割について問われると、多くの紛争当事者が、「軍事力によって戦争に勝利することが可能だ」と考える傾向が強まり、さらに紛争の要因の複雑化も伴って、国連による橋渡しや調停が非常に難しくなっていることを率直に語りました。そして、戦争に真の勝利者がいないことをいか国連事務総長と30人の学生の懇談会Full lecture available on Sophia University official YouTube channel.グテーレス氏の講演は本学公式YouTubeチャンネルでご覧いただけます(英語)11

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