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ニュース 第2回「人間の安全保障と平和構築」 2017年 5月 9日 実施報告

第2回「人間の安全保障と平和構築」 2017年 5月 9日 実施報告

2017年5月9日(火)午後6時45分から、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナー「人間の安全保障と平和構築」(第2回)が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。

この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生と市民、外交官や国連職員など、多様な参加者が、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。

第二回目は、NHK報道局社会番組部右田千代チーフ・プロデユーサーが、『「オバマと会った被爆者」を取材して〜ヒロシマが世界平和にもたらすもの』をタイトルに、講演をしました。

講演に先立ち、杉村美紀教授(上智大学グローバル化推進担当副学長)が、上智大学創立から104年たち、これからも文化の違いを超えて、グローバルな課題に取り組んでいく意気込みを語りました。また、これからの連続セミナーが、学生だけでなく、外部の方にも参加してもらうことで、異なった立場からの様々な意見交換がなされる場になることを期待すると述べました。

右田氏の講演では、最初に、米国のオバマ大統領が広島を訪問をテーマに、右田さん自身がロケ・取材をした番組を上映しました。そして、その番組の主人公であった、オバマ大統領と実際に言葉を交わした被爆者の一人である、坪井直さん(92歳・日本原水爆被害者団体協議会代表委員)との数十年に渡る関係について、お話されました。

そして、右田氏がどの様な思いでこの番組の制作に至ったのか、また坪井さんへの密着取材で感じたことを熱く語りました。右田氏は、坪井さんと共に時間を過ごすことで、平和という言葉が「血肉の通った言葉として理解できる様になった」と述べました。そして、平和とは、被爆者が経験したことが二度と起きない世界であると語りました。

その後、右田氏は、坪井さんの平和に関する思いを表す言葉を3つ紹介しました。

一つ目は、「謝罪を求めない」です。坪井さんが、アメリカ滞在時に現地の方の「アメリカ人だって傷ついた」という言葉を耳にし、真珠湾を訪問したいという思いに駆られました。真珠湾を訪問した際に、ある現地の方が、坪井さんの肩を叩いて、「ありがとう」って言ってくれたそうです。その経験から、坪井さんは「憎しみをそのまま出しても伝わらない。自分の中の憎しみ、怒りは変わらないかもしれないが、核兵器廃絶を本気で実現するためには、その負の感情に折り合いをつけ、前を向く必要がある」と、確信しました。

二つ目は、「戦争は絶対にダメ」という坪井さんの口癖です。坪井さんは、広島で臨時救護所に向かう日本軍のトラックに、小学2年生くらいの女の子が乗車を拒否され、その子が泣きながら燃えさかる爆心地に走って行ったのを目の当たりにしました。「走り去っていくのを止められず、その子を救ってあげられなかった悔しさが今でもこみ上げる。その女の子のようにたとえ原爆から生き残ることができても、大人たちが彼女を救わなかったという、戦争の現実がある。広島は、その意味で、原爆と戦争の二つを経験した。だからこそ、核兵器だけを廃止するのでなく、戦争自体をしないことが大切なんだ」と坪井さんは強調したということです。

三つ目は、「核兵器の被害は、原爆を落とされた国に限らず、全人類の被害である」という言葉です。核兵器がもたらす影響は、民族や国境を越えて、放射線は次世代にまで影響を及ぼします。そのような兵器を、どの国が持つことができて、どの国が持つのはいけないという話はおかしい。全人類が、この兵器を放棄すべきだと指摘しました。

右田氏は、「原爆を体験していない人に被爆の真実が伝わっていないかもしれないという思いで、自分の体験を語ってくれた坪井さんの言葉を伝え続けることが義務だと思っている。被爆された方と同じ時代を生きている今だからこそ、その義務を感じ、坪井さんの言葉を届けることが、私にとっての平和構築です。希望を抱く思い、そして希望を抱き続ける思いは、たとえ核兵器によっても奪い取れない」と熱く語りました。

コメンテーターの音好宏教授(上智大学文学部新聞学科長)は、右田氏の番組が、広島の方々1人1人に寄り添ってその思いを伝えるドキュメンタリーである点が印象的であると述べました。また、インターネットなどを通じて膨大な情報にアクセスできる現在のメデイア情勢を鑑みて、質の高いジャーナリズムを担保する必要性を強調しました。

また司会の東准教授は、北朝鮮をめぐる核問題の緊張が高まる中、軍事的なオプションを取った場合の結果や影響などについて、もっとメディアが伝える必要があるのでは指摘しました。そして、セミナーのテーマである「人間の安全保障」の問題が、自分たちの毎日の生活にも関わっていることを認識したいと述べました。

講演後、学生や外部の方々から多くの質問が寄せられました。紛争を経験していない世代の人々が、戦争の経験を受け継いでいくためにはどうすれば良いのかという質問に対し、右田氏は、戦争体験談を聞いた人から直接話を聞くべきであると強調しました。

会場には第1回と同様、150人近くの参加者が集まり、今後のセミナーへの期待の声が寄せられました。

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