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ニュース 第1回「人間の安全保障と平和構築」 2017年 4月 22日 実施報告

第1回「人間の安全保障と平和構築」 2017年 4月 22日 実施報告

2017年4月22日(土)、上智大学グローバル教育センターが主催する連続セミナーの第1回「人間の安全保障と平和構築」が、上智大学四谷キャンパス2号館17階の国際会議場で開催されました。

この連続セミナーは、人間の安全保障と平和構築に関し、日本を代表する専門家や政策責任者を講師としてお迎えし、学生と市民、外交官や国連職員など、多様な参加者が、共にグローバルな課題について議論を深め、解決策を探っていくことを目的にしています。

1回目は、今年3月に出版された「人間の安全保障と平和構築」(編著・東大作、日本評論社)の出版記念シンポジウムを兼ね、本の執筆者と第二部の司会を務めた滝澤美佐子教授の12名が登壇しました。

冒頭では、本学の大塚寿郎(上智大学学務担当副学長)から挨拶があり、上智大学がグローバルな課題に向き合い、その解決に取り組む人材を育てることを目指していることを強調しました。その上で、国の統治機構が崩壊すると、そこに住む多くの人々が犠牲になっていることを受け、「人間の安全保障」と持続的な平和構築が現代において重要な課題になっていること指摘。「人間の安全保障と平和構築」連続セミナーが、このような国境を超える課題について、学生と市民が共に解決策を考えるプラットフォームとしての役割を果たすことへの期待を述べました。

その後のパネルデイスカッション・第1部では、人間の安全保障の定義を説明した上で、国家による統治機能の再構築について議論が行われました。

最初に、東大作(元国連アフガニスタン支援ミッション和解再統合チームリーダー、上智大学准教授)が、人間の安全保障の定義や理論的枠組み、さらに平和構築と人間の安全保障の関係について解説。その上で、平和構築における正統性がある政府を確立する課題や困難について、問題提起しました。

それを受けて、長谷川祐弘(元国連事務総長特別代表【東ティモール担当】、日本国際平和構築協会理事長)が、自ら現地の国連代表を務めた東ティモールを取り上げ、2006年の政治危機に際して、どうやって紛争の拡大を防いだのか。現地の指導者とのやりとりを紹介しつつ、平和構築における指導者の役割を解説しました。

鈴木恵美(早稲田大学地域・地域間研究機構主任研究員)は、エジプトにおける「アラブの春」以降の民主化の動きとその挫折を、民主化が続いているチュニジアとの比較から分析。民主化の後に政権を担ったムスリム同胞団が、わずか2年で軍によって転覆された要因について解説しました。

植木安弘(上智大学教授、元国連広報官)が、「人間の安全保障」とテロリズムの関係をテーマに、国際化するテロリズムと国際社会の対応について、歴史的な経緯も踏まえて、解説しました。統治機構の破たんがテロの温床になることから、統治機構の再生がテロ対策としても重要だと強調しました。

第1部の最後、大塚副学長が、国境を超える課題や国際紛争の解決は、容易ではないものの、さらに対話や議論を重ねていくことの重要性を指摘し、今後もこのような議論を続けていくことへの期待を述べました。

第2部では、「人間の安全保障」を履行するためにどのような社会を作るべきか、人々のエンパワーメントを通じた「ボトムアップ」からのアプローチについて、議論が行われました。

まず、畝伊智朗(元JICA研究所所長、吉備国際大学教授)が、JICAなど援助機関が実施する平和構築事業の意義と難しさについて、自ら携わったコンゴ民主共和国やウガンダでの経験を基に解説。JICAが「人間の安全保障」という政策概念を基軸に据え、平和構築支援を進めていることを強調しました。

続けて、杉村美紀(上智大学教授)が、教育の観点からみた「人間の安全保障」について述べました。そして、近年、調査を行っているネパールにおけるインクルーシブ/特別支援教育を例としてあげ、平和構築を行っている国家での教育において、包摂性と公正をめぐる課題と今後の方向性について、解説しました。

また福島安紀子(青山学院大学教授)が、文化・スポーツ活動を通じた心の平和構築について、フィールド調査研究の内容も踏まえて事例も含めて紹介しました。そして平和を構築する上で、政治、経済、安全保障面からの平和構築のみならず、紛争の原因にもなっている文化面からのアプローチを組み合わせる立体的な平和構築の必要性を論じ、平和の定着のためには共生や和解が必要であることを指摘しました。

第2部で、司会兼コメンテーターを務めた滝澤美佐子(桜美林大学教授)は、本書や2部のパネリストの人たちが、難民や国内避難民、障がいのある人、対立を抱えるコミュニティにいる人々の尊厳を大事にし、その主体的な平和構築のあり方を示していることに感銘を受けたと指摘しました。

第3部では、こうした世界状況を踏まえ、日本がどのように行動すべきかについて議論しました。

長有紀枝(立教大学教授・難民を助ける会理事長)は、「人間の安全保障」概念が日本外交の中心的な理念になりうるにも関わらず、現時点では浸透していないことを指摘されました。そして外交だけでなく内政(たとえば震災の被災者への対応など)にも、人間の安全保障という理念を基に政策を実施すれば、日本の国の在り方として一貫性を打ち出せると強調しました。

大島賢三(元国連日本政府代表部常駐代表、元JICA副理事長)が、日本の外交の場として最重要である国連安全保障理事会の改革について、実際に自ら国連大使として深く関与した2005年の安保理改革の動きについて述べた上で、今後の改革の方向性について論じました。

また滝澤三郎(元UNHCR駐日代表、東洋英和女学院大学客員教授)は、日本の紛争国家からの難民受け入れの現状を述べつつ、その少なさの要因について、独自に入手した資料も駆使して分析しました。そして今後、日本としてどのような難民政策をとるべきか具体的に提言しました。

最後に、三部の司会を務めた東氏は、平和構築におけるビジネスの観点から日本企業が作っている太陽電池がエネルギー源とした蛍光灯が、紛争後国や貧困地で子供が勉強できる環境を作り、「人間の安全保障」に多大な貢献をしていることを例にあげ、今後、学生や若い人たちが「人間の安全保障」の理念や考え方を忘れずにいれば、どのような仕事に就いても、「人間の安全保障」を向上させることに貢献できると強調しました。

シンポジウムの最後に、旭英昭(日本国際問題研究所客員研究員)は、「平和構築」と「人間の安全保障」の関係と、平和構築が統治のための制度構築に収斂していく中で、その“困難な”課題を考察するうえで必要となる「国家」と「社会」のむすびつき、の二つについて話をしました。そして、(市民)社会がもつソーシャル・キャピタルの果たす役割とその可能性を強調しました。

シンポジウムでは、参加者とパネリストの間で、熱心な議論や意見交換が行われました。多くの質問が会場から出され、その中には、平和構築において自称「イスラム国」も包括的な政治プロセスに含むべきかどうか。どのような選挙制度であれば、エジプトの民主化は成功したか。文化活動を平和構築に活かすためには共通の文化が必要ではないか。学生が2020年の東京オリンピックに向けて取り組めることは何なのか、など、活発な議論が行われました。 

会場には、170名以上もの参加があり、今後のセミナーへの期待の声も寄せられました。

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