総合グローバル学科 黒沢 直也

2017年東ティモール・スタディツアー

今回の東ティモールツアーは一週間という短い期間ながらも、現地の方々のお話から毎日たくさん学ぶことができ非常に充実していました。東ティモールというマイナーな国に勉強で行けるチャンスはなかなかないだろう、と軽い気持ちで参加したこのツアーでしたが、実際に自分よりも若い国の姿を見て、そこで一生懸命働く日本人の方や、ティモールの方のお話を聞いて、毎日滞在先のホテルに帰った後色々なことを考えました。そして日本に帰国してからも強い印象が残りました。
訪問する前は町の様子などほとんど想像がつかず、どのような国なんだろうと思っていました。しかし、小さな空港にはバーガーキングの看板が立っており、首都ディリの中心部に向かう道路はきちんと整備され、LEDを使っている電灯もありました。何回か皆で食事をしたフードコートは、新しくできたショッピングモールの中にありたくさんの店が並んでいました。しかし、そこでの物価は同じような商品でも経由地のバリ島よりも高いものでした。貧しい国、ということは聞いていたのですが街中にストリートチルドレンの姿はなく、代わりに暇そうな若者がたくさんいました。観光客の姿はほとんど見かけなかったため、私たちのようなよそ者はどのように対応されるのだろうと少し不安でしたが、スーパーで買い物をした際に「オブリガードゥ(現地語でありがとう)」というと必ず愛想よく「ナーダ(どういたしまして)」返してくれたのが印象的でした。発展を続ける中心部、高い物価、暇な若者、温厚な人々の気性、到着した直後これらの要素は人口が少ない発展途上国において矛盾するのではないかと思いましたが、次第に東ティモールを理解するうえで重要なポイントなのだと分かりました。

今回のツアーでは学生がなかなかお会いすることのできない方々のお話を聞く機会を先生が設けて下さり、その中でも日本大使館の山本大使やJICAの鵜飼所長から貴重なお話を伺うことができました。お二人が口をそろえておっしゃっていたのが東ティモールにおける人材育成の重要性でした。目立った産業がなく、近隣海域の石油収入に大きく依存する東ティモールにおいて、優秀な労働者を育成するのは極めて重要なことでありながら現在ローカルパートナーの能力は低いといいます。それは一つに東ティモール特有のゆっくりとした気質、そしてしっかりとした教育が整備されていないことなどの原因があると考えられます。その結果、都市部は発展を続けていながらも25歳以下の失業率は4割を超えているのだそうです。また、生活用品から工事技術まで輸入に頼り切っていることや、通貨としてドルを使用している社会構造が、高い物価を作り上げていました。初めてこの話を聞いた際は「この国はこれから発展し続けられるのだろうか」と思いました。しかし、このツアーの終盤に東ティモールの政治的リーダー二人、マリ・アルカテリ元首相とシャナナ・グスマン元首相とお会いできた際に、この国には国民が尊敬する素晴らしいリーダーがいるのだと感じました。彼らが強調したのは東ティモールが2002年に独立してからわずか15年でゼロからここまでの発展を成し遂げたことでした。独立をめぐりインドネシアと戦っていた時、東ティモールは一度全土が焼け野原になりました。そこから力強くこの国は成長し続けているのです。都市部と農村部の格差は増え続けているのが現状ですが、二人の話からは彼らが自分の国の民のことを真剣に考えていることが伝わりました。アルカティリ元首相の「誰が選挙で勝利しても、この国の発展のプラットフォームは変わらない」という言葉やグスマン元首相の「一番重要なことは対話と平和だ」という言葉はこの国がなぜ政治的に安定しているかという問いに対する明確な答えであり、とても心に残るものでした。

今回のツアーではコーヒー農家を支援するNGO、PARCICの伊藤さん、イエズス会学校の教員として東ティモールに派遣され、リキサ県の聖イグナチオ高校で設立から現在に至るまで働かれている浦神父、UNDP(国連開発計画)の現地職員として働かれている石田さん、岡田さん、といった現地で働かれている日本人の方とお会いする機会もつくっていただきました。見知らぬ土地で、はじめは言葉も通じない住民といかにして信頼関係を築いてゆくのか、そしてそこに住む人々のために一生懸命活動しているその姿は、その言葉以上に心に訴えるものがありました。日本で普通に生活していてはなかなか関心が向かないであろう、東ティモールという貧しい小さな若い国で、こんなに頑張っている方がたくさんおられるのだと実感しました。PARCICの伊藤さんが、「日々の日本の暮らしの中で、食べているものがどこから来ているのかそのつながりを考えることが重要」とおっしゃっていたことが心に残りました。
ここには内容をすべて書ききれないですが、外務省のCoelho二国間関係担当局長やPARCICの工場で働く労働者の方、そしてディリの警察署の方、通訳のEvarist さんにもお話を伺うことができました。この一週間でお聞きした話、そして目で見た風景をしっかりと消化して、いつの日かさらに発展した東ティモールを訪れる日が来るといいなと思います。
最後に、これらすべての方々とのアポイントメントをコーディネートしていただき、このツアーを企画してくださった東大作先生に感謝申し上げます。本当にありがとうございました。

このページの内容についての
お問い合わせ窓口

担当部署名
グローバル教育センター
お問い合わせ窓口
2号館1階