働く人のやりがいやウェルビーイングを重視するマネジメントについて考える

経済学部経営学科 
教授 
森永 雄太

組織行動論や経営管理学が専門の経済学部の森永雄太教授。個人が仕事にやりがいを見出すための手法であるジョブ・クラフティングや、心身の健康を追求することで企業の業績向上を目指すウェルビーイング経営について語ります。

個人が生き生きと働くことが組織の成果に結びつく――。そのマネジメントについて研究し、論文発表や企業への研修を通して、人々を幸せにする企業活動を社会に浸透させたいと考えています。

仕事に「やらされている感」がある人や、ストレスを感じている人は少なくありません。そういった人は仕事に前向きになれませんし、結果として生産性も上がらず、組織の業績向上にもつながらないでしょう。こうした問題を解決する手法としてジョブ・クラフティングが注目されています。ジョブ・クラフティングとは、従業員が決められた仕事だけではなく、自分の役割を広げることや、他者との関わり方に変更を加えることで仕事にやりがいを見出していくことです。

例えば、東京ディズニーリゾートにはカストーディアルという職種があります。カストーディアルの決められた仕事は、パーク内外の清掃。あまり人気のある職種ではありませんでしたが、あるカストーディアルは清掃だけではなく、ほうきで地面にキャラクターの絵を描いてゲストを喜ばせるようになりました。自身の得意な「絵を描くこと」を役割に取り入れ、仕事をよりやりがいのあるものへとつくり変えることに成功したのです。

ジョブ・クラフティングは従業員のモチベーションを高めるだけでなく、パフォーマンスを向上させ、組織の成果にもつながります。企業には能動的な働き方を引き出すために従業員を元気づけ、支援するマネジメントが求められています。

心身の健康施策で社内コミュニケーションが活性化

もう一つ、注目されている手法がウェルビーイング経営です。ウェルビーイングとは、心身ともに健康で、社会的にも満たされた状態のこと。従来から従業員の身体の健康増進を目指す「健康経営」という考え方がありますが、ウェルビーイング経営は従業員の身体だけでなく精神の健康も重視し、その結果を業績向上につなげようという考え方です。

私は企業17社と連携した研究会を行い、共通した健康習慣を100日間続けるプロジェクトに取り組んでもらいました。みんなで歩いたり、野菜を食べたりといった取り組みを各社同時にスタートさせ、健康への自己評価や仕事へのモチベーションをプロジェクトの前後で測定したのです。すると、健康施策を通して社内のコミュニケーションが活性化し、従業員のモチベーションや組織への愛着が高まるという結果が得られました。社内のつながりをつくるための手段として、健康施策は有効なのではないかと思います。

企業は金儲けをするだけではなく、人や社会を幸せにする

最近は建築学の研究者とともに、オフィスとやりがいの関連について研究しています。コロナ禍を経て、従業員が個々のデスクを持たないフリーアドレス、働く場所を自由に選べるABW(Activity Based Working)など、働く環境も多様になってきました。個人の自由度が高まる一方で、集中して仕事ができるのか、情報共有や協働がうまくいくのかという課題もあります。従業員のウェルビーイングや企業のパフォーマンス向上につながるオフィスのあり方、働く環境に合わせたマネジメントの手法などを探っていきたいと考えています。

企業はただ金儲けするだけの存在ではなく、事業を通じて人や社会に貢献し、幸せにするという側面もあります。個人でやるよりも、たくさんの人が協働してやるからこそ大きな成果も残せる。そうした企業活動に働く人一人ひとりが生き生きと参入していける仕組みについて考え、伝えていきたい。それが私の目標です。

この一冊

『センスは知識からはじまる』
(水野学/著 朝日新聞出版)

若い頃は「努力よりもセンスで生きたい」という気持ちが強いもの。センスは知識を身につけることで生かせるようになるということを伝えたくて授業で輪読したことがありますが、学生から非常によい反応がありました。若い人におすすめの1冊です。

森永 雄太

  • 経済学部経営学科
    教授 

神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了博士(経営学)。武蔵大学経済学部准教授・教授等を経て、2023年より現職。

経営学科

※この記事の内容は、2024年6月時点のものです

上智大学 Sophia University