上智大学

大学案内 2019年度9月期 学位授与式 式辞

2019年度9月期 学位授与式 式辞

2019年(令和元年)9月20日
上智大学長 曄道佳明

本日上智大学を巣立つ日を迎えられた皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、ご父母並びにご関係の皆様にも心よりお祝い申し上げます。

さて、皆さんの学び、研究は、どのように結実したでしょうか?皆さん自身が期待した成果のレベルを無事にクリアしましたか?あるいは、まだその道半ばにあり、さらなる学問の追及の必要性を感じているでしょうか?学問の探求の道は、進めば進むほどその深さに戸惑い、広さに驚愕するものです。つまり、学びきった、研究を究めたという実感を得ることは、延々として訪れることがないゴールラインでもあります。皆さんの成果は、学問探求の道に身を置き、そのプロセスを経験することで、学びの在り方や、研究へのアプローチ法を身に付けたということに他なりません。その到達の程度に差はあるにせよ、卒業、修了を経た皆さんが向き合う次なるステップは、“発揮”あるいは“還元”という言葉で表現されるでしょう。

学びや研究の成果は、単に自分の内に蓄積されるものであってはなりません。社会に対して、まさに他者のために還元されていく発揮の機会が必要です。また自身の人生の充実のために、皆さんが得た智の基盤は信念や志の成就に向けて、やはり発揮されねばなりません。皆さんが学んだ上智大学の精神“Men and Women for Others, with Others”とは、自身の能力を他者に還元し、正しい社会の実現に貢献することを求めています。もちろん、大学の各課程で身に付けた智は、大学を離れた後もさらに深く、広く膨らませていくことが求められます。蓄積と発揮、この繰り返しの中で皆さんの社会における役割が果たされていくことになるのです。皆さんは、その方法論を身に付けました。それは、自分の志を成就させ、社会を生き抜き、社会に貢献するための基盤となるはずです。

それでは、皆さんが得た智の基盤を発揮する機会である社会の現状とは、どのような様相を呈しているでしょうか?この機会に、現状を俯瞰し、未来を展望しておくことが必要でしょう。変化の時代と言われます。社会のグローバル化はいまだに混沌とした状態にあり、終着点を見出すことができていません。データ駆動型社会の到来は、人類社会に劇的な発展の可能性が期待されるものの、やはり社会の在り方に再考が求められ、その行く先は明示されていません。このような状況下において、社会には不透明性、不確実性への不安感があることも事実です。その不安の根底は、今訪れようとしている社会の変化が、人間社会における倫理や価値の変化を確実に伴うことにあると思われます。つまり、これまでの延長線上にない新しい社会の創出期にあるという戸惑いでもあります。智の基盤を身に付けた皆さんに期待されることは、まさにこの新しい社会を創成することに役割を果たすことであります。

しかしながら、社会が持つ変化に対する不安に対して、私たちはその払拭に向けた方向付けをできるだけ速やかに講じるべきでしょう。これまでも人間社会の発展は、変化の中で果たされてきました。技術革新、経済社会の浮き沈み、国際関係の緊張など、常に私たちは予期せぬ変化に直面しながら、その有効利用や打開策を講じることで社会の発展を導いてきました。一方で、これまでの変化に対する対応は、必ずしも輝かしいものばかりではなく、負の足跡も残してきました。繰り返される紛争や、地球環境問題などはその象徴でもありましょう。あるいは格差社会、一国主義などと呼ばれる現象も、変化が生んだ負の側面であるように思われます。つまり、社会の変革期とは、常に人間社会の岐路を意味してきたのです。今なすべき私たちの対応は、社会の経験、歴史から学び得るものでもあります。今日上智大学を卒業する皆さんには次のメッセージを送りたいと思います。変化の時代は、社会の飛躍の機会であります。この節目の時に皆さんがすべきことは、今世界は何に成功し、何に失敗しようとしているのか、を自問自答し、見極めることです。そのことが皆さんの社会での役割を明確にしてくれることでしょう。

先ほど、カトリックセンター長からマタイによる福音書の一節(注)が紹介されました。ここで述べられた装いとは、皆さんの生き方と置き換えることができます。まず良い人になりなさいと説かれています。そのことが、その人が大切にされること、愛されることを導くのです。自分のことだけを考えていてはいけない。自分への愛や装いは、後からついてくるものなのです。新しい時代、変わりゆく社会の中で活躍する皆さんの人生を彩るキャリアとは、見返りを求めず正しい社会に向かって歩み、その成果を社会や他者に還元するという循環にあります。

最後に、私たちは皆さんに、今一度上智大学の教育の精神を思い起こしていただきたいと思います。“Men and Women for Others, with Others” 社会の変革期において、この自覚こそが皆さんに満ち足りた人生を導きます。また、その意識を持つ皆さんのリーダーシップが良質な社会の創成を導きます。上智大学での学びが、皆さんに変化の時代を心地よく生き抜く基盤を与え、皆さんの人生の豊かさが、他者に寄り添う心を源泉とするものであることを祈念して、私の式辞とさせていただきます。

(注)マタイによる福音書 6章25~34節
〔イエスは言われた。〕「自分の命のことで何を食べようか何を飲もうかと、また自分の体のことで何を着ようかと思い悩むな。空の鳥をよく見なさい。種も蒔かず、刈り入れもせず、倉に納めもしない。だが、あなたがたの天の父は鳥を養ってくださる。あなたがたは、鳥よりも価値あるものではないか。なぜ衣服のことで思い悩むのか。野の花がどのように育つのか、注意して見なさい。働きもせず、紡ぎもしない。しかし、言っておく。今日は生えていて、明日は炉に投げ込まれる野の草でさえ、神はこのように装ってくださる。まして、あなたがたにはなおさらのことではないか。」