上智大学

大学案内 2019年度秋学期入学式 式辞

2019年度秋学期入学式 式辞

2019年(令和元年)9月21日
上智大学長 曄道佳明

撮影:KEIGADO

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。また、保護者、ご関係の皆様、本日は誠におめでとうございます。

新しいスタート台に立つ皆さんが一堂に会し、新たな緊張感の中で、共に時間と空間を共有するこの式典は、大学の最も重要な節目の時でもあります。また、もちろん皆さんにとっての人生の節目の時であることは疑う余地はありません。この集いの機会に、この時代に生きる、地球に生きるために、上智大学での学びをどのように捉えるべきか、共に考えてみたいと思います。

皆さんは、数年後には大学や大学院での過程を終えることになるでしょう。しかし、それは学びの最終機会ではありません。学校制度としての学びの場は最終段階でありますが、学ぶとは、あるいは研究を究めるとは、人生を通じて常に新たなチャレンジを続けていく創造的な作業であります。社会に生きるすべての人は、常に学び続け、その成果を自分自身の人生の充実に、また社会への貢献に還元していくものです。その意味で、学びの質を見極める力、学ぶ力そのものを蓄えることこそが、大学、大学院という課程の中で成し得る最も重要な成果とも言えます。皆さんの学びの成果物は、それは卒業論文、修士論文、博士論文などの形で示されますが、皆さんに学ぶ力、探求する力の基盤が備わり、高い質の結果を導く資質が備わったことの証を示すことになるのです。

しかしながら、その具体的成果物で得た知見のみによって、社会を生き抜き、社会に貢献し、自身の志を成就させることは難しいでしょう。学ぶプロセスを経た皆さんは、さらに次なる学び、探求を継続、発展させていくことが求められます。大学や大学院において、その基盤を深く、広く作ることが求められているのです。時間をかけた体系的な学びの機会は、社会の中でなかなか得られるものではありません。その一連の学びの経験こそが、いずれ社会に出たときに、自らの新しいチャレンジに対するエネルギーとなり、課題解決へのアプローチ法を立案可能とし、得られた解に対して検証する力を生み出すこととなります。

撮影:KEIGADO

皆さんには、このような大学、大学院での学びの意味を十分に理解した上で、変革期に直面する社会に向き合うことの意識を強く持っていただきたいと考えます。それは、自分はどのような時代を生き、地球に生きるとはどういうことかという問題意識を常に心にとどめるということでもあります。社会は今、混沌とするグローバル化の過程にあり、またデータ駆動型社会への転換期にあります。今を生きる多くの人々にとって、社会は劇的な変化を遂げる変革期にあると言えるでしょう。劇的な変化という言葉を使った理由は、人間社会の本質であるべき倫理、価値そのものの変化が誘導されると考えられるからです。単に技術革新、国際情勢の変化などという言葉にとどまらない新しい質的変化が社会に生まれる時代ととらえるべきでしょう。一方で、私たちが生きるこの地球はどのような状況にあるでしょうか?気候変動などの環境問題、貧困や飢餓の問題、行き渡らない教育の問題、ジェンダーや人種・民族に対する偏見など、地球規模の課題はようやくその存在の自覚に至った段階といっても過言ではありません。これらの課題解決なしに真の共生社会の実現はあり得ません。

このように見てみると、AI技術に代表されるデータ駆動型の社会、グローバル化の過程にある社会において、いかに人間社会の本質を見失わないことが重要かということに気づきます。変化が連続する時代において、この本質を見失わないことの難しさは、人類が経験した過去の失敗が示しているところでもあります。つまり、社会の変革期は、社会に大きな発展をもたらす好機会でもある一方で、変化の時代は、その方向付けにおいて大きなリスクも伴うのです。上智大学で学ぶ皆さんは、この社会の発展に大きく寄与する存在となり得ますし、そこにあるリスクを回避する貴重な存在になり得る人たちでもあります。そのために、これからの大学での学び、研究がどうあるべきか、その設計図を描いてみてください。また、この入学の機会に、皆さんの学ぶ志を再認識してください。

先ほど、カトリックセンター長からルカによる福音書の一節(注)が紹介されました。隣人の在り方が説かれています。皆さんは常にだれかの隣人であるでしょうか?自分の周囲に目を向けるべき対象はありませんか?「あなたも同じようにしなさい」とは、皆さんのこれからの人生の中でどのような意味を持つのでしょうか?皆さんの目標への到達に、また皆さんの人生の中での成長に向けて、このことを深く胸に刻んでください。このような人間性のあり方についても、上智の学生として強い意識を持ち、自己の成長につなげていただきたいと思います。

皆さんを心より歓迎いたします。上智大学が掲げる教育の精神、“Men and Women for Others, with Others“は、まさにこの時代に、この地球に生きるために、私たちが備えるべき本質的な精神を示しています。皆さんの上智大学での学びが、この精神にのっとり、これからの新しい社会の創成への貢献につながるものであることを切に願い、私の式辞とさせていただきます。

(注)ルカによる福音書 10章29~37節
〔ある律法の専門家が〕「わたしの隣人とはだれですか」と言った。イエスはお答えになった。「ある人がエルサレムからエリコへ下っていく途中、追いはぎに襲われた。追いはぎはその人の服をはぎ取り、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。ある祭司がたまたまその道を下って来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。同じように、レビ人もその場所にやって来たが、その人を見ると、道の向こう側を通って行った。ところが、旅をしていたあるサマリア人は、そばに来ると、その人を見て憐れに思い、近寄って傷に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をして、自分のろばに乗せ、宿に連れて行って介抱した。そして、翌日になると、デナリオン銀貨二枚を取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『この人を介抱してください。費用がもっとかかったら、帰りがけに払います。』さて、あなたはこの三人の中で、だれが追いはぎに襲われた人の隣人になったと思うか。」律法の専門家は言った。「その人を助けた人です。」そこで、イエスは言われた。「行って、あなたも同じようにしなさい。」