館長  北條勝貴  文学部史学科教授

2009年に制定された「公文書等の管理に関する法律(公文書管理法)」は、国家や独立行政法人等の諸活動を証し民主主義のよりどころとなる公文書が、適切に保存・管理・運用されることを目的とした法律です。しかし、同法が施行された2011年には、東日本大震災によって、東北地方を中心に多くの文化財、公文書が失われました。少なからぬ市町村が、いわば「歴史」を消し去られた悲劇は、諸々の記録、種々の史料の大切さを一般に印象付けたはずです。ところが、以降の各政権が同法を遵守せず、政治的な思惑から公文書を廃棄、改竄し、あるいは作成さえしてこなかったことは、もはや周知の事実です。日本社会では未だ、公文書管理法に謳われる文書・記録=国民主権の砦という認識が、充分に浸透していないのかもしれません。それは、同じく私たちの社会が「人権意識が低い」と指摘されることとも、どこかで通底しているのではないでしょうか。


過去からの贈り物である文書・記録を、よりよい未来を構築してゆくために保存・運用するアーカイブズは、それゆえにこそ、いまこの国の社会において極めて重要かつ、重い責任を担うものと考えます。研究と教育によって未来に貢献すべき大学が、アーカイブズを設置する意味も大きい由縁です。しかし、国公立大学のそれが公文書管理法や独立行政法人情報公開法に依拠し、先に述べたような社会貢献の責務を明確に持つ一方で、私立大学のそれには、どうしても一種の曖昧さがつきまといます。既設の私立大アーカイブズは大半が博物館と一体となり、大学内のコンテンツをその宣伝に利用するような、広報機能を中心としたものも認められます。文化の拡充という意味では社会貢献のひとつに違いありませんが、冒頭に述べたようなアーカイブズの本義に立ちかえったとき、私立大学であるからこその存在意義、国公立大アーカイブズの枠組みから零れ落ちてしまうものを大切にすくいあげ、社会・文化をより多様に、豊かに、公正に補完してゆく役割がみえてくるのではないでしょうか。また、国家が公文書管理を適切な運営、公共性維持の担保とするように、大学アーカイブズの運用は、大学という機関・組織そのものの健全な運営を助け、一般社会に保証するものとなりえます(この点、私立大学ならばなおさらでしょう)。


私たちのソフィア・アーカイブズは、未だ設置されて間もなく、所蔵資料を適切に扱うために必要な諸規程や、管理に不可欠な設備も充分ではありません。しかし、本学院の根幹を支えるキリスト教ヒューマニズムや建学の精神に基づき、他者のための社会の構築と公共性の維持に貢献すべく励んでまいります。COVID-19の影響でインターネットへの依存が一層進み、文書運用のあり方が大きく変容しつつあるいま、私たちの理想をよりよく実現することが叶いますよう、諸賢のご教導を心よりお願い申し上げる次第です。

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